知っておきたい!健康と医療 今月のテーマ『ピロリ菌』

2005年ノーベル医学生理学賞は、ピロリ菌の培養に成功したマーシャルとウォレンが受賞しました。それまで胃炎や胃・十二指腸潰瘍の原因は食生活やストレスにあると考えられていましたが、この考えを根底からくつがえし、ピロリ菌であると解明したことが受賞理由です。今回はそのピロリ菌についてお話させていただきます。

ピロリ菌とは

ピロリ菌に感染している日本人の割合は、年齢が上がるにつれて増え、50歳以上では70~80%といわれています。その多くは、戦前戦後の衛生状態の悪い時代に乳幼児期を過ごし、ピロリ菌に汚染された水を飲むなどして感染したと考えられています。大人が感染しても免疫の働きにより排除されますが、抵抗力の弱い乳幼児が感染すると、そのまま住みつき、大人になっても自然にいなくなることはありません。
通常、細菌は強い酸性の環境である胃では生存できませんが、ピロリ菌は自ら生成したアンモニアにより胃酸から身を守り住み着きます。胃粘膜はピロリ菌の出すアンモニアや毒素によって障害され慢性胃炎が起こり、その多くが一定の年月を経て粘膜が薄くなる萎縮性胃炎へと進展していきます。また、慢性的な炎症は粘膜の修復力を弱め、胃・十二指腸潰瘍を発症しやすくなります。
ピロリ菌に感染している人すべてが胃・十二指腸潰瘍になるわけではありませんが、胃潰瘍の70~80%、十二指腸潰瘍の90~100%の患者さんはピロリ菌に感染しており、一旦治っても、ピロリ菌に感染した状態では再発を繰り返すことが多いと言われています。また胃がんのリスクを高めることもわかっています。さらに最近の研究では、消化管以外の病気との関連性を示唆する報告も出ています。

  • ピロリ菌は正式には「ヘリコバクターピロリ」という名前で、らせん型(ヘリコ)の細菌(バクテリア)が胃の出口(幽門:ピロルス)辺りに好んで住みつくということから命名されました。

検査

ピロリ菌の感染の有無を調べる検査には、次のようなものがあります。

内視鏡検査
胃粘膜の組織の一部を採取して調べます。
尿素呼気テスト
尿素を含む検査薬を飲み、20分後の呼気にピロリ菌が尿素を分解し作られた特定の二酸化炭素があるかどうかを調べます。
抗体/抗原測定法
血液や尿に含まれるピロリ菌の抗体や、便に含まれる抗原の有無を調べます。

除菌治療

胃潰瘍の治療薬の1種である「プロトンポンプ阻害薬」と、「アモキシシリン」、「クラリスロマイシン」の2種類の抗菌薬を1週間内服します。7日間毎日内服した場合の除菌率は80~90%ですが、きちんと服用しないと除菌効果が下がりますので、処方された通りに飲むことが大切です。
除菌できたかどうかは4週間後に検査をして確認します。除菌できなかった場合は、再除菌を行うこともあります。この際にはクラリスロマイシンに変えて、抗原虫薬の「メトロニダゾール」を用いると効果が高いと考えられています。「メトロニダゾール」は、2007年8月から保険適用が認められました。

薬の副作用
下痢・軟便が多く、次いで味覚異常・口内炎、発疹等があげられます。重篤な副作用を起こすことは非常にまれですが、激しい下痢、発熱、腹痛を伴う下痢や血便、また呼吸の乱れなどが起これば、速やかに受診する必要があります。
除菌後の注意
ピロリ菌が除菌されると、胃の働きが正常に戻り胃酸の分泌が増加するため「逆流性食道炎」を起こすことがありますので、胸焼けなどの症状があれば医師にご相談ください。また、胃の調子がよくなることによる食べすぎにも注意しましょう。

終わりに

現在のところピロリ菌の検査や治療に保険が適用される病気は、胃・十二指腸潰瘍のみとなっていますので、これらの病気以外の方が希望される場合には、医療費は自己負担になります。気になる方は専門医にご相談下さい。また最近では、健康診断や人間ドックのオプション項目として、ピロリ菌の検査を選択できる施設も増えつつあるようですので、医療機関に問い合わせてみてもよいでしょう。

参考文献
EBMに基づく胃潰瘍診療ガイドライン第2版(株式会社じほう)
H.pylori感染の診断と治療のガイドライン2003年改訂版(日本ヘリコバクター学会)
Helicobacter pylori除菌療法Q&A(先端医学社)
監修
救急救命東京研修所 教授 名倉 節

●情報提供:T-PEC保健医療情報センター

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