知っておきたい!健康と医療 今月のテーマ『脳梗塞の最新治療』

一般に、脳梗塞は時間が経つほど拡大し、また、残念ながらいったん梗塞により壊死した細胞は元通りには回復しません。このような状態になる前に、血管の閉塞を取り除き、血流を回復させることが本質的な治療になります。近年、画像診断技術の進歩と新薬の開発によって、詰まった血管を再開通させ、後遺症を最小限に抑えられるようになりました。今回は、その最新治療を中心にお話したいと思います。

脳梗塞とは

脳梗塞は、脳の血管が何らかの原因で細くなったり、詰まってしまったりすることにより、脳細胞に十分な酸素や栄養が送られず壊死してしまう病気で、次のような種類に分けられます。

ラクナ梗塞
高血圧等により、脳の細い血管に圧力がかかり続け、血管壁が厚くなることで起こります。
アテローム血栓性脳梗塞
糖尿病、脂質異常症等により、脳の太い血管や頚動脈の動脈硬化が進むことで起こります。
心原性脳塞栓症
不整脈等で心臓の中にできた血栓が、脳の太い血管に詰まることで起こります。

脳梗塞の症状は、障害された部位や程度によって異なります。半身の麻痺やしびれ、めまいやふらつきで立てない、呂律が回らない等の言語障害、視野が欠ける、物が二重に見える等の目の症状、さらに重症の場合は、意識障害が起こります。

  • 発症機序により、脳血管自体が動脈硬化をきたして閉塞する「脳血栓症」、脳以外の部分(主に心臓や頚動脈)で生じた血栓が脳血管を閉塞させる「脳塞栓症」、脳血管の閉塞や強い狭窄があるところに、血圧低下や除脈などの循環障害が加わって生じる「血行力学性」に分類されます。

検査

脳梗塞が疑われる場合は、まずMRIやCTを行います。MRIは発症後間もない、また小さな梗塞を見つけることができる検査ですが、最近では「MRI拡散強調画像」という新しい方法で、より早い時期の脳梗塞を見つけられるようになりました。CTは脳梗塞の早期診断という点ではMRIより劣りますが、脳出血との鑑別には優れた検査です。MRA、3DCT、脳血流シンチ、脳血管撮影等の検査も必要に応じて行われます。動脈硬化による頚動脈の狭窄があるかを確認するためには、頸部超音波検査やMRAが有効です。心原性脳塞栓を疑う場合は、原因となる不整脈や心筋梗塞がないかを心電図で、心臓内に血栓がないかを心臓超音波検査で調べます。

治療

1 急性期(発症2週間以内)の治療

脳細胞の壊死を食い止めるためには、急性期のできるだけ早い段階で治療を受けることが重要です。なかでも発症から3~6時間以内の超急性期に治療を受けるのが理想です。脳梗塞の種類や発症後の経過時間に応じて、以下の薬物療法を組み合わせて行います。

血栓溶解療法
発症後3時間以内の場合は、血栓溶解薬(t-PA)を点滴し、脳の血流を速やかに再開させる治療を行います。t-PAは脳梗塞治療の新薬で、使用すると後遺症なく社会復帰する割合が高くなるとされています。ただし、3時間を超えると梗塞部の血管がもろくなっている可能性が高く、そこに血流を再開させると血管が破れて脳出血を起こす恐れがあるため、他の治療法が行われます。また、発症5日以内の脳血栓症の治療として低用量ウロキナーゼが点滴投与される場合もあります。
抗脳浮腫療法
アテローム血栓性脳梗塞や心原性脳塞栓症では、発症後1~2日すると病巣と周辺の組織がむくんで周囲の組織や血管が圧迫され、正常な脳細胞まで障害されることがあるため、むくみを抑える抗脳浮腫薬(高張グリセロール)の投与を行います。
脳保護療法
脳の血流が悪化すると、梗塞部周辺に活性酸素などの有害物質が発生し脳細胞を傷つけます。この有害物質の働きを抑えるために、脳保護薬(エダラボン)が投与されることがあります。発症24時間以内に使用するのが有効とされており、急性期以降も継続して投与されます。
抗凝固療法
血液中の凝固因子(血液を固める成分)の働きを抑えて血栓を防ぐ治療です。発症48時間以内で、病変最大径が1.5cmを超す脳梗塞(心原性脳塞栓症を除く)に対して、選択的トロンビン阻害薬(アルガトロバン水和物)が投与されます。また、ヘパリンが使用されることもあります。
抗血小板療法
血小板の働きを抑えて血栓を防ぐ治療です。発症5日以内に抗血小板薬(オザグレルナトリウム)を投与する方法(心原性脳塞栓症を除く)や、経口摂取できる場合は、発症48時間以内にアスピリンを内服する方法があります。
その他
血漿増量薬を用いた血液希釈療法や、低体温療法などが実施されることもあります。

2 慢性期の治療

リハビリテーションと再発予防が主な目的になります。最近は、発病当日からの開始を含む早期リハビリが後遺症を減らすとして注目を集めています。再発予防としては、抗血小板薬や抗凝固薬を内服して血栓ができるのを防ぐ他に、喫煙や過度の飲酒はやめる、塩分、脂肪、エネルギーの取りすぎに気をつける、運動をして肥満を防ぐなどの生活習慣の改善が挙げられます。原因となる高血圧や糖尿病、脂質異常症などの病気を治療することも大切です。さらに、年に1度は動脈硬化の進み具合や新たな脳梗塞の兆しがないか、検査で確認する必要があります。また、発症や再発を予防する治療として、次のような外科的治療が行われることもあります。

頚動脈内膜剥離術(CEA)
全身麻酔下に頚動脈を切開し、動脈硬化を起こしている部分を削り取り、血液の流れを改善する手術です。
経皮的血管形成術・ステント留置術
頚動脈の狭窄に対する新しい治療法です。足の付け根からカテーテルを挿入し、血管が細くなっている部分にバルーンを通し、そのバルーンを広げることにより血管を広げます。また、広げた血管にステントという金属製の網状の筒を留置し、再狭窄を予防します。頚動脈内膜剥離術に比べて体への負担が少ないので、心臓など他に病気があって全身麻酔の使用に危険を伴う人や、高齢者などにも行われます。

おわりに

早期に発見することで、治療の選択肢が増え、よい治療結果が期待できます。そのためにも、周囲の人や自分自身が脳梗塞の兆候を見逃さず、すぐに医療機関を受診することが大切です。

参考文献
脳卒中治療ガイドライン(日本脳卒中学会)
脳神経外科学Ⅰ(金芳堂)
今日の治療指針(医学書院)
標準脳神経外科学(医学書院)
監修
救急救命東京研修所 教授 名倉 節

●情報提供:T-PEC保健医療情報センター

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