知っておきたい!健康と医療 今月のテーマ『LASIK(レーシック)』

ゆっくりと読書を楽しめる季節になってきました。字を読む機会が増えると、目の健康が気になるものです。多くの方が悩まされている近視は自然治癒が困難なため、眼鏡やコンタクトレンズで矯正するのが一般的ですが、近年、エキシマレーザーを用いた屈折矯正手術も普及しつつあります。この手術にはいくつか種類がありますが、手術後に視力が回復するスピードが早く、痛みも少ないといった理由から、90%以上がLASIK(レーシック)という方法によって行われています。今回は、このレーシックについてお話します。

近視とは

近視とは、目に入ってきた光が適切に屈折しないため、網膜の手前でピントが合い、近くのものは見えるが遠くのものはぼやけて見えるという状態のことです。眼軸長(角膜から網膜までの長さ)が正常より長すぎるか、角膜・水晶体の光の屈折力が強すぎることにより起こりますが、原因はよくわかっておらず、遺伝的な要素と環境が複雑にからんでいると考えられています。

レーシックとは

点眼麻酔をし、マイクロケラトームという特殊な装置で角膜に薄く切れ目を入れ、切り離さずに端がつながった状態(これをフラップといいます)にして、めくります。その部分にエキシマレーザー(角膜混濁などの治療にも応用されている人体に優しいレーザー)を照射して角膜を削り(近視の程度が強いほど、削る角膜の量は多くなります)、照射後、めくったフラップを元に戻します。フラップは自然に接着します。
手術にかかる時間は両目で15分程度です。術後数時間は医療機関で安静を保ち、問題がなければ日帰りが可能です。多くの場合、翌日には視力が回復してきますが、視力が安定するには1週間から1ヶ月程度を要します。90%以上の人が裸眼視力1.0以上に回復すると言われていますが、視力の回復が不十分な場合には、眼鏡やコンタクトレンズによる矯正の追加が必要になることもあります。

適応・検査

レーシックを受けるためには、20歳以上であり、過去1年間の視力の状態が安定していることが必要です。また、強度の近視の場合、目に別の病気がある場合や全身の病気を合併している時は手術が受けられない場合があります。これらの条件に加え、様々な検査(角膜形状検査、眼底検査、涙液検査、眼圧検査、角膜径測定など)を実施し、手術が受けられるか、どのような術式が適しているか、どのくらいまで視力が上がるか、角膜の厚みをどの程度残すことができるかなど、様々な点を慎重に検討します。

手術のメリットとデメリット

メリット

レーシックを行った場合、多くのケースで裸眼視力が1.0以上に回復するとされています。そのため、眼鏡やコンタクトレンズに頼らずにすみ、紛失や破損に気を配る必要がなくなります。
また、肩こりや疲れ目など、目が見えにくいことに伴う様々な症状から開放される可能性もあります。

デメリット

手術に伴い、次のような合併症を生じる場合があります。

痛み
点眼麻酔をするので、術中の痛みはほとんどありません。手術後麻酔が切れてからしばらくの間、目が痛い、しみる、ゴロゴロするといった異物感を感じることがありますが、その場合は処方された鎮痛薬で対処します。
角膜感染症
フラップの切れ目が癒着して回復するまでに細菌が入り、感染症を起こす場合があります。東京のクリニックで角膜感染症が発生したニュースは記憶に新しいものです。これは手術器具の滅菌消毒の不具合が原因と考えられています。正しい知識を持った医師が、清潔な器具を使って適切な方法で行えば、感染症が起こることは稀ですが、万が一、感染が起こってしまった場合は、重篤な視力障害を引き起こさないために、早期に適切な治療を受けることが大切です。
ハロー・グレア
ハローとは、明るい光の周りにぼんやりとモヤがかかっているように見える症状で、グレアとは、明るい光が眩しく見える症状を言います。手術直後からこれらの症状が表れることがありますが、フラップが完全にくっついていない時期の光の乱反射が主な原因であるため、多くは時間の経過とともに改善します。しかし、強度近視の場合やレーザー照射の範囲が、暗所での瞳孔の大きさに合っていない場合などは症状が残ることがあります。
過矯正、低矯正、不正乱視
レーザー照射後の傷の治り方により、目標よりも矯正の度合いが高くなる場合(過矯正)や、低くなる場合(低矯正)があります。また、フラップを戻した後、微妙なずれやしわができ、不規則な乱視が起こる場合(不正乱視)があります。軽度であれば特に問題はありませんが、視力に影響を及ぼすようであればフラップを再剥離してしわを伸ばすという処置が必要になります。
ステロイド緑内障
手術後、炎症を抑えるために使用するステロイドの副作用で緑内障が起こることがあります。強い作用のステロイド薬ほど緑内障が起こりやすいといわれています。
上皮下混濁
フラップの下に角膜表面の細胞が入り込んで増殖し、細胞の塊を作ってしまうことがあります。軽度であれば特に問題はありませんが、視力に影響を及ぼすようであれば、フラップを再剥離して洗浄するなどの処置が必要になることがあります。
角膜拡張症
手術で削った角膜が、極端に薄くなることによって、眼球の内側からの圧力(眼圧)に耐えきれず、角膜の中央部分が前方に突出して変形することがあります。この症状が起こると、手術前よりもさらに近視が強くなってしまったり、強度の乱視になったりすることがあります。
フラップ異常
フラップが部分的にしかできない、極端に薄くなって中央に穴ができる、不規則な形になる等のトラブルが生じることがあります。これらの頻度はいずれも低いですが、重症の場合は手術前よりも視力が低下することがあります。また、手術後、目に強い衝撃が加わると、フラップがずれてしまうことがあり、その場合は元に戻す手術が必要になります。
層間角膜炎
多くは術後の比較的早い段階で、フラップの下に炎症を起こすことがあります。早期に点眼等の治療をすることで、ほとんどの場合は問題なく回復しますが、重症の場合はフラップを再剥離して洗浄するなどの処置が必要になることがあります。
ドライアイ
手術によって角膜の表面の神経が傷つけられるため、涙の分泌量が少なくなり、術後数ヶ月間程度、ドライアイの症状が出ることがあります。点眼薬などで症状を緩和することができます。

手術後の注意点

手術後しばらくは角膜の抵抗力が普段より弱い状態にあるため、注意が必要です。以下に代表的な日常生活の注意点を挙げます。個々の状態によっても異なりますので、主治医の指示に従って生活しましょう。

  • 術後は、最低でも翌日・1週間後・1ヶ月後に診察を受ける必要があります。医療機関や手術方法等によって受診回数や時期は異なりますが、必ず主治医の指示通りに受診しましょう。
  • 処方されるいくつかの点眼薬は、決められた通りに使用しましょう。ご自身の判断で減らしたり、中止したりすると、合併症が生じることがあります。
  • 約1週間程度、外出時は保護用メガネを使用し、異物の混入や衝撃から目を守りましょう。また、寝ている間に目をこすったり、腕などが当たったりするのを防ぐために、就寝時には保護用眼帯を使用します。
  • 入浴、洗顔、洗髪は2日目以降、医師の許可が出た時点で可能になりますが、1週間程度は目に水や石鹸が入らないように注意が必要です。
  • ファンデーションなどの軽いお化粧は2日程で可能になりますが、アイメイクは約1週間、まつげパーマは1ヶ月程度控えましょう。
  • パソコンの使用など目を酷使する仕事や、野外でのハードな仕事は3日程度避けましょう。
  • ゴルフやジョギングなどの軽いスポーツは1、2週間後から可能ですが、水泳やテニスなどの激しいスポーツは1ヶ月程度避けるようにして下さい。
  • 車・バイクの運転は視力が安定するまでは控えてください。特に夜間はグレアやハロー、夜間視力の低下を感じる場合がありますので、1週間程度は控えて下さい。
  • 術後の回復を遅らせるため、アルコールは1週間程度、喫煙は3日程度控える必要があります。副流煙にも注意が必要です。

費用

現在のところ健康保険が適用されていないため、医療機関によって異なりますが、数十万円単位の費用がかかるとされています。

おわりに

レーシックは、眼鏡やコンタクトレンズに頼らずにすむ画期的な治療法である一方、手術であるため、合併症などのリスクが伴います。眼科専門医と相談し、十分納得した上で治療に臨むことが大切です。

参考文献
エキシマレーザー屈折矯正手術のガイドライン(日本眼科学会)
眼科診療プラクティス 9.屈折異常の診療(文光堂)
監修
T-PEC相談医 眼科医師 鳥山 浩二

●T-PEC保健医療情報センター 発行

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