知っておきたい!健康と医療 今月のテーマ『心の疲れを見過ごさないで』
なにもやる気が起こらない、理由もないのにイライラする、体を休めても疲れがとれないなどの不調を感じてはいませんか? このような不調は、仕事の重責や長時間労働、人間関係などによるストレスが気づかないうちに積み重なって、「いよいよがまんの限界を超えつつある!」と心が鳴らしている警鐘かもしれません。
体の異常は、発熱や痛みなどといった症状で現れることが多いため、発見されやすく、対処もしやすいものです。ところが、心の異常は、はっきりとした症状がないため、なかなか発見されにくく、見過ごされてしまいがちです。
心が鳴らす警鐘に気づくことができず、さらに疲れが蓄積する状況が続けば、たとえばアスリートが体を酷使しすぎて疲労骨折するように、心が疲労骨折してしまう可能性があるのです。
心が発しているSOSのサインに、いち早く気づくには
私たちはだれもが、個人差はあるものの大小さまざまなストレスを受けて生活しています。そのストレスによる心の疲労をきちんと認識し、うまく対処して生活できていれば問題はありません。問題なのは、心の疲労を認識できなかったり、認識していてもうまく対処できなかったりする場合です。心の疲労は、蓄積し続けると、気づいたときには重い心の病にかかっていたなどという危険性があるのです。
心が発するSOSのサインは、心や体の不調、日常生活のなかの行動や態度、言動などの変化として表われます。まずは、自分の心がSOSのサインを発していないかどうか見つめてみましょう。できるだけ早くSOSのサインに気づくことがまず大切です。
心の不調
一時的なものではなく、継続的に続くのがポイントです。
- 不安感
- 根拠のない漠然とした不安 など。
- 無気力
- やる気がまったく起きない、前より仕事のペースが遅くなった など。
- 無感動
- 以前なら感動するような出来事にも心が動かない など。
- 自己嫌悪
- 他人から受けたちょっとした注意のひと言がいつまでも頭から離れない など。
体の不調
自律神経の不調から起こる体の異常。病気の引き金にもなるため注意が必要。
- 睡眠サイクルの不順
- 眠れない、眠りが浅く疲れがとれない、朝起きることができず遅刻を繰り返す など。
- 胃腸の不調
- 下痢や便秘が続く、または交互に繰り返す など。
- 呼吸器や循環器の不調
- 息がうまくできない、動悸が激しく不安にかられる など。
- 運動機能の不調
- 手足がしびれる、声が出ない、体が思うように動かない など。
行動の変化
- 自意識の低下
- 身だしなみに気を使わなくなる(同じ服を何日も着続ける、無精ひげを伸ばしっぱなしにする など)。
- 外出恐怖
- 社会との接触を拒む(外に出ると体の具合が悪くなりそうなので外出を避ける など)。
- 強迫的反復動作
- 発作的に同じ行動を繰り返してしまう(鍵のかけ忘れを恐れて何度も確認してしまう、手が汚いと思って何度も洗い続ける など)。
その他
上記以外の日常生活に影響を及ぼす変化です。
- 記憶力減退
- ここ数日間の出来事が思い出せない、ひどいときは自分の名前や年齢などを忘れるときがある など。
- 判断力低下
- 単純な決断も混乱して決めることができない など。
- 集中力低下
- いつもうわの空で何をしていても集中力が続かない など。
部下や上司、同僚、家族など、周りの人にも目配りを
心の疲れの蓄積から心の病にまで進行してしまう人のなかには、SOSのサインが出ているのに、そのことにまったく気がつくことができなかったり、気づいているにもかかわらず見て見ぬ振りをしてしまったりという場合が少なくありません。
しかし、もし周りにいる人がその人の小さな変化に気づくことができれば、心の病を未然に防ぐことができるかもしれません。会社の上司や部下、同僚、そして家族などに、「最近、ひとり言やひとり笑いが増えた」とか「以前に比べて、動作や反応が鈍くなり、表情も乏しくなった」など、ふだんと違う様子がみられる場合は、心に何かしらの負担を抱えている可能性があります。どんなに小さな変化でも、気づいたら一刻も早く対処できるよう、周りの人への目配りも心がけましょう。
周りの人の心の不調を見落とさないためのポイント
- (1) ふだんから積極的なコミュニケーションを心がける
- 心身ともに健康な状態のときの人柄や性格を知らなければ、その変化を見抜くことはできません。ふだんから仕事の話ばかりではなく、なにげない世間話などを交わすことができるような関係を築いておくことが大切です。
- (2) 仕事に対する姿勢に変化があったら要注意
- 「遅刻や欠勤が増えた」「仕事のペースが遅くなった」「周囲の人とうまく折り合いをつけられなくなった」などの様子が見え始めたら要注意です。
- (3) 安心できる環境で声をかけて、コミュニケーションをとる
- 他人がいる場所で大声で激励するなどは厳禁です。仕事から離れたゆっくりと話ができるような場所で、本人に負担をかけない範囲で会話をしてみましょう。最後まで腰を据えて聞いてあげることが大切です。
- (4) 症状の重さによっては、上司や家族、専門家と相談も
- しばらく様子を見ても、本人の心の負担がなかなか解消されないようなら、上司や企業内カウンセラー、家族に状況を説明し、適切な対応を求めましょう。
「今朝はなんだか体が重くて、なかなか起き上がることができない…」などというときは、もしかすると心が体を使って「助けて」と訴えているのかも。そんな日は無理をせず、思い切って仕事を休む勇気をもちましょう。
せっかくつくった自分の時間は、仕事などはすっぱり忘れてしまうこと。音楽鑑賞やスポーツなど好きなことに没頭したり、公園に散歩に出かけて自然を感じてみたり。映画やドラマなどを観て、泣いたり笑ったりして、感情を思いっきり開放するのもお勧めです。
そしてまた、いつものようにはつらつと仕事に向かえばいいのです。
- 参考文献
- 『オフィスワーカーのストレス克服レッスン』(監修/心療内科「アーツクリニック大崎」院長 村林信行、発行/社会保険研究所)
- 文責
- 社会保険研究所©
●ティーペック株式会社 発行