FPによる知って得する!くらしとお金の話

第1回

遺言者も家族も知っておきたい「自筆証書遺言の保管」に関する概要と注意点

コープ共済について

2020年8月

令和2年7月10日から、法務局で自筆証書遺言を預かってもらえる「遺言書保管制度」が始まりました。それによって、自筆証書遺言の作成をしたり保管制度を活用したりする人が今後増えると予測できます。

もし、配偶者や親がこの制度を知らない間に遺言書を作成しているとしたら、家族としては無関係ではありません。遺言書を作成しようと思っているなら特に、知っておきたい内容です。

1.保管制度の大まかな特徴と概要

保管できる遺言書は「自筆証書遺言」に限定されているため、直筆で作成した遺言書が対象です。まずは、この制度の大まかな概要をみてみましょう。

遺言書保管制度の大まかな特徴と概要

  • 遺言書原本とデータ化した画像を遺言者が120歳到達時もしくは死後50年間保管してもらえる
  • 紛失、破棄、偽造、変造がなくなる
  • 検認(遺言者の死後に家庭裁判所で行う遺言書の偽造・変造防止手続き)が不要になる
  • 方式不備での無効がなくなる
  • 法務局(遺言者の住所地か本籍地、所有する不動産の所在地を管轄)に保管の申請をする(要予約。遺言者の本籍の記載のある住民票や本人確認書類が必要)
  • 遺言者が自筆証書遺言(ホッチキス止めと封筒への封印はしない)を持参しなければならない
  • 遺言者は預けた遺言書の閲覧や返還請求ができる
  • 相続人は、遺言者死亡後のみ遺言書の検索や交付・閲覧請求ができる
  • 手数料が必要(5.遺言書保管制度でかかる費用を参照)

2.遺言書保管制度のメリットと注意点

この制度利用で相続人が困らなくなることが3つあります。①有効な遺言書が保管される②検認が不要になる③遺言者死亡後に遺言書の有無が検索できることです。

  1. 1有効な遺言書が保管される
    遺言書を持参した際に、自筆証書遺言の要件(全文自筆※、日付、署名、押印)の確認がなされるため、要件に不備がある場合は預かってもらえません(修正部分は教えてくれます)。つまり、遺言書として「無効」になることはないということです。
    ただし、内容に関しての確認はされないため、遺言内容次第では無効と同様の状態になったり、書き漏れがあって別途遺産分割協議が必要になったり、相続人間でトラブルになったりする可能性は残されています。
    ※ 財産目録のみパソコンでの作成や通帳コピーや登記事項証明書等の添付でもよい。ただし、すべてに署名と押印が必要。
  1. 2検認が不要になる
    自筆証書遺言を法務局で保管していない場合、遺言者死亡後に遺言書の検認を行わなければなりません。家庭裁判所に申立てをする際に、相続人確定の書類(遺言者の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本や相続人全員の戸籍謄本など)が必要なため、それらの書類の準備に時間がかかるうえ、申立てをしても、検認の日まで1~2か月程度待たされます。
    封印されている遺言書の場合は、開封してはいけないため(開封すると5万円以下の過料がかかる可能性があるが遺言書が無効になるわけではない)、本当に有効なのか、どのような内容なのか、遺言執行者は書かれているのかなどがわからないまま過ごさなければなりません。封印されていなければ遺言内容が確認できますが、検認が済むまでは相続手続きなどが行えないため、そのまま保留状態にしておかなければなりません。
    このように、検認が済むまでの間は、預金の解約等相続手続きは行えないため、検認なくすぐに相続手続きが行えるようになるのは大きなメリットです。
  1. 3遺言者死亡後に遺言書の有無が検索できる
    遺言書があるのか否かを確認できる点はメリットの一つです。遺言者の死亡後なら、全国どこの法務局からでも検索ができます。事前に法務局へ予約をし、「遺言書保管事実証明書の交付の請求」をすることで、遺言書が保管されているか否かを知ることができます。とはいえ、保管されている遺言書が最新の遺言書かどうかはわかりません。不明な場合は自宅内を探したり公証役場で検索をしたりすることも必要です。

3.保管されていても遺言者ができること、遺言者の死亡後に相続人が行うこと

  • 遺言者は、預けた遺言書の内容を見ることができる
  • 遺言者は、預けた遺言書を返してもらう(撤回する)ことができる
  • 遺言者死亡後は、相続人等が遺言書内容のわかる書類を請求できる

一度作成しても、遺言者本人なら預けた遺言書を確認したり、返してもらったり、新しい遺言書を再提出したりすることができます。

預けた遺言書の確認は、「遺言書の閲覧の請求」をすることでできます。モニター(タブレットなどの画面)による閲覧なら、全国どこの法務局でもできますが、原本を見たい場合は遺言書を預けた法務局でしか見られません。

遺言書を返してもらう(撤回する)場合は、事前に遺言書を預けた法務局に予約を入れ、「遺言書の保管の申請の撤回書」を提出することで遺言書を返してもらうことができます。

新しい遺言書を保管してもらいたい場合には、遺言書を返してもらい(撤回)、あらたに遺言書を預けます。

なお、遺言書および住所や氏名などに変更が生じたときは、法務局に「変更届出書」の提出をする必要があります。この変更に関しては、郵送でもできます。

そして、相続人が遺言者死亡後、保管されている遺言書を請求する場合は、「遺言書情報証明書の交付」の請求をします。この証明書を取得することで遺言書の内容がわかるため、この書類で相続手続きを行います。

ちなみに、遺言者の死後に自分だけこっそり遺言内容を確認することはできません。相続人等が遺言書の閲覧や交付の請求をすると、相続人等へ通知される仕組みになっているからです。

閲覧や交付の請求は、遺言者との関係性がわかる書類を持参すれば、どこの法務局でもできます。

4.遺言書保管制度のデメリットと注意点

この制度の一番のデメリットは、遺言者自身が法務局に出向かなければならないことです。一度預けたのち、再作成した遺言書と差し替えをしてもらうにしても、再度出向かなければなりません。

法務局に預けられなかったら、検認が必要になってしまいます。もし検認を避けたいのなら、公正証書遺言で作成するしか方法はありません。

公正証書遺言は費用がかかりますが、2.の①~③までのメリットがすべて含まれています。何よりも大切なのは、この制度のメリットのみに目を向けるのではなく、遺言書を作成する本来の目的――たとえば、相続手続きがスムーズにできるように、家族が争わないように・困らないように――を達成できるようにしなければ意味がありません。十分理解したうえで、制度の利用をすることが大切です。

5.遺言書保管制度でかかる費用

遺言書の保管や閲覧、証明書の請求などをするには、手数料が必要になります。

行う申請や請求 申請・請求できる人 手数料
遺言書の保管申請 遺言者 3,900円/1件
遺言書の閲覧請求(モニター) 遺言者
遺言者の死後は相続人も
1,400円/1回
遺言書の閲覧の請求(原本) 遺言者
遺言者の死後は相続人等も
1,700円/1回
申請書等・撤回書等の閲覧の請求 遺言者
遺言者の死後は相続人も
1,700円/1回
遺言書情報証明書の交付請求 相続人等 1,400円/1通
遺言書保管事実証明書の交付請求 相続人等 800円/1通
明石 久美
相続・終活コンサルタント、特定行政書士、CFP®認定者、葬祭アドバイザー 他。
専門は相続であるが、身内が葬祭業だったため供養に関する知識があることから、終活も含めた対策を行っている。主に、遺言書、家族信託、おひとりさま対策、相続手続きの業務が多い。また講師として、終活や相続対策として今から行っておきたい準備や、間違えた終活を防ぐためのセミナーや研修を全国で行っており、「コープ共済連(くらしの見直し講演会)」でも講演している。著書に『配偶者が亡くなったときにやるべきこと』(PHP研究所)『はじめての相続+遺品整理』(水王舎)など多数ある。趣味は神社仏閣巡りと温泉巡り。温泉ソムリエでもある。

「知って得する!くらしとお金の話」コラム 一覧はこちら

こちらもおすすめ

サイドメニュー