知っておきたい!健康と医療 今月のテーマ『禁煙にチャレンジ~新しい禁煙補助薬について~』
たばこは百害あって一利なしと言われています。ただ、その害はわかっているけれどやめられないという方が多いのではないでしょうか。日本の喫煙人口は年々減少傾向にはありますが、現在約2,700万人と言われています。喫煙している方の中で禁煙を希望している方は7割に及びますが、たばこが身近にあり、喫煙が習慣化してしまうとやめることが難しいというのが現実です。
禁煙に対する意識の高まりとともに禁煙外来の普及や禁煙補助薬の開発が進んでいます。今回は今年5月に販売された新しいタイプの禁煙補助薬のことを中心に、禁煙への取り組みについてお話しましょう。
やめたいけれど、やめられない
たばこの煙には多くの有害物質が含まれています。たばこをやめられない原因はこの有害物質の中のニコチンの依存にあることがわかっています。2006年4月に「ニコチン依存」は治療の必要な「病気」であると位置づけられ、保険適応も可能となりました。これまでの治療はニコチンガムやパッチなどの喫煙以外の方法でニコチンを体内に補給し、少しずつ量を減らしてニコチンのない状態に慣らしていく「ニコチン代替療法」が主流でしたが、今年5月に新しいタイプの禁煙補助薬が販売されました。
新しいタイプの禁煙補助薬について
今年5月8日に新しいタイプの禁煙補助薬チャンピックス(一般名バレニクリン)が保険適応となりました。この薬は飲み薬タイプで、ニコチン成分を含んでいません。ニコチンを補充するニコチンパッチやニコチンガムと違い、治療開始とともに完全に禁煙しなくてもよく、治療開始後薬の服用量を徐々に増やして、たばこの本数を徐々に減らしていくことができます。本来はたばこを吸うと、ニコチンが脳の受容体に結びついて神経伝達物質のドーパミンが放出されることにより満足感が得られます。チャンピックスは有効成分がニコチンの代わりに脳内の神経細胞のニコチン受容体に結びついて、ニコチンの半分程度のドーパミンを放出させるため、たばこを吸わなくてもある程度の満足感は得られることから、離脱症状やたばこに対する切望感を軽くしてくれます。また、禁煙中に喫煙してしまったとしても、ニコチンが受容体に結びつくのを邪魔してくれるので、たばこを吸っても満足感を感じなくなります。
しかし、この薬はニコチンパッチやニコチンガムのように市販されていません。必ず医師の診察、処方箋が必要となります。またその効果に期待するところが多いものの、実際の治療に使用される段階になったばかりなので、副作用も注意しなくてはなりません。一般的な副作用は吐き気や頭痛、不眠などですが、2006年から販売している米国ではうつ状態や自殺願望を抱く方も報告されています。これらの症状は禁煙に伴うものであるとも考えられますが、いずれにせよ、使用するのであれば医師の適切な指示に基づいて治療を受けることが必要です。
禁煙補助薬の比較
チャンピックス | ニコチンパッチ | ニコチンガム | |
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長所 |
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短所 |
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費用 | 18,000円くらい(保険適応3割負担) | 12,000円くらい(保険適応3割負担) 市販薬:20mgで1枚400円くらい |
市販薬:12個入りで1,100円くらい |
以上のように禁煙補助薬それぞれに長所、短所があります。ニコチン依存度や自分のライフスタイルに合わせた禁煙補助薬を選択して使用することが可能です。
禁煙外来に行ってみよう!
専門的な禁煙の治療を受けられるのが禁煙外来です。禁煙外来は一定の条件を満たした医療機関で、全国各地に5,439件(2008年6月現在)あります。禁煙外来の情報は禁煙学会のホームページか各都道府県社会保険事務局で教えてもらえますので、お近くの禁煙外来に受診してみましょう。
禁煙外来の診療のおおまかな流れ
標準的な禁煙治療プログラムは12週間にわたり計5回行います。初回診察時は現在の喫煙状況の確認、医師による問診、ニコチン依存スクリーニングテスト(TDS)による依存度の測定、呼気一酸化炭素濃度量の測定でニコチン依存度を客観的に評価します。その上で禁煙開始日を決定、治療方法を選択します。その後は2週間後、4週間後、8週間後、12週間後に受診します。診療費は、初診料または再診料、ニコチン依存症管理料に加え、禁煙補助薬それぞれの薬代、院外処方料などがかかります。ニコチン依存症管理料は、初回から12週間までが適応期間となり、それ以降治療を続ける場合は自費診療となります。しかし、初回治療から1年を超えれば保険診療を再度受けることが可能です。
禁煙外来での保険適応の条件
保険診療を受けるのであれば適応条件を満たさなくてはなりません。
次のすべてに該当し、医師でニコチン依存症管理が必要と認めた方
- 1直ちに禁煙しようと考えていること
- 2ニコチン依存症に係るスクリーニングテスト(Tobacco Dependence Screener:TDS)が5点以上のニコチン依存症と診断されたものであること
- 3ブリンクマン指数(=1日の喫煙本数×喫煙年数)が200以上であること
- 4「禁煙治療のための標準手順書」(日本循環器学会、日本肺癌学会及び日本癌学会の承認を得たものに限る)に則った禁煙治療について説明を受け、治療を受けることを文書により同意していること
以上が適応条件となります。また、禁煙外来は薬物治療だけでなく、精神面のサポートにも力を入れているところもあるようです。依存度によって必要な治療方法を選択し、無理のない禁煙を行いましょう。
禁煙してみようかなと思った方へ
今年4月から特定健診・保健指導が開始され、健康に対する意識は高まっています。健康だけは一朝一夕に手に入れることができないかけがえのないものです。自分自身のためだけではなく、大切な家族のためにも健康を保ちたいものです。
禁煙にチャレンジしてみようと思ったその時がスタートです。この記事を読んでくださった方の1人でも多くの方が禁煙を成功されることを心より祈っています。
- 参考文献
- 国民衛生の動向2006年(財団法人厚生統計協会)
- 出典
- たばこと健康に関する情報ページ(厚生労働省)
健康日本21ホームページ(財団法人健康・体力づくり事業団)
- 監修
- 救急救命東京研修所教授 名倉 節
●情報提供:T-PEC保健医療情報センター