知っておきたい!健康と医療 今月のテーマ『肺炎球菌ワクチン』

風邪やインフルエンザの流行する冬が近づいてきました。長引いて治りにくいと思っていたら、肺炎だったということも少なくありません。肺炎は、がん、心疾患、脳血管疾患に続き、日本人の死亡原因の第4位で、年間に10万人以上の方が亡くなり、その多くが高齢者の方です。中でも肺炎球菌によるものが最も多いと言われ、アメリカではすでに積極的にワクチン接種をしています。日本でも関心は高まっていますが、まだ接種率は低いのが現状です。今回は、この「肺炎球菌ワクチン」についてお話しましょう。

肺炎球菌による肺炎

肺炎球菌は健康な人の鼻やのどなどに常に存在している可能性のある菌で、肺炎球菌があるだけで必ず肺炎になるというわけではありません。しかし、高齢者や慢性の病気のある方など抵抗力が衰えている場合や、風邪やインフルエンザにかかった後などで気道の粘膜が弱った時は、感染し肺炎を起こしやすくなります。また、いったん肺炎を起こすと血管内に菌が入り、全身に運ばれて重症化しやすいのが特徴です。治療は抗生剤を使って菌を死滅させる薬物療法が中心ですが、近年従来の抗生剤が効かない耐性菌が増加し、治りにくくなっています。そのため、肺炎を起こさないように予防することが重要となっています。
気をつけたい症状:発熱、咳、痰が3~4日続きなかなかよくならない場合は、肺炎の疑いがありますので医療機関へ受診してください。ひどくなると、胸の痛みや呼吸が苦しいという症状が出てきます。ただし、高齢者の場合は典型的な症状がはっきりと現れず、「元気がない」「呼吸が荒い」「食欲がない」などの漠然とした症状のことも多いので注意が必要です。

ワクチンの効果

肺炎球菌は約90種類ありますが、そのうち成人の肺炎の原因となることが多い23種類に対して有効なワクチンを日本では使用しています。このワクチンは、わが国で流行している肺炎球菌による肺炎の80%をカバーすると言われています。また、1回の接種で5年以上効果が持続します。肺炎の発症を完全に予防するものではありませんが、少なくとも重症化を防ぎ、入院や死に至るリスクを減らすことができます。また、インフルエンザワクチンも併せて接種すると、効果が高まることがわかっています。

対象者と接種方法

接種した方がよい方

2歳以上(※1)で、肺炎球菌による感染により重篤になる危険のある以下の方に勧められています。

  1. 165歳以上の高齢者
  2. 2心臓や呼吸器に慢性の病気がある方
  3. 3糖尿病の方
  4. 4腎臓や肝臓の病気がある方
  5. 5脾臓を摘出した方

接種方法

筋肉内または皮下に注射します。原則として1回のみの接種です。(※2)
1年中いつ接種してもかまいません。インフルエンザなどの不活化ワクチンを受けた後は1週間以上、麻疹などの生ワクチンを受けた後は4週間以上の間隔をあける必要があります。

  • ※12歳未満の子どもには、有効な免疫を獲得することが期待できないため、接種が禁止されています。
  • ※2再接種した場合、注射部位の著しい副反応(疼痛、発赤、かたくなる)が起こりうるため、1回のみの接種になっています。

副反応

注射部位の腫れや痛み、軽い発熱、関節痛、筋肉痛などがみられることがありますが、2~3日で消失します。重篤な副反応は非常に少ないものの、アナフィラキシー様反応(過敏なアレルギー反応で起こる呼吸困難など)や血小板減少、知覚障がいなどが認められる場合があります。

費用

脾臓を摘出された方は健康保険がききますが、それ以外の方は基本的に全額自己負担です。医療機関により異なりますが、6,000~9,000円程度のことが多いようです。

  • 公費助成が実施されている自治体もありますので、詳細はお住まいの自治体にお問い合わせください。

おわりに

今回はワクチンによる予防を中心にお話しましたが、肺炎をはじめとする様々な感染症から身を守るためには、外出時にマスクを着用したり、帰宅時の手洗い・うがいを習慣にしたりすることが大切です。また、十分な睡眠、栄養バランスのよい食事、適度な運動などに日ごろから心がけて、抵抗力を高めるようにしましょう。

参考文献
予防接種の手びき(近代出版)
予防接種ノート改定第2版(診断と治療社)
予防接種に関するQ&A(2007年度版)(細菌製剤協会)
人口動態統計(厚生労働省)
監修
救急救命東京研修所教授 名倉 節

●情報提供:T-PEC保健医療情報センター

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