知っておきたい!健康と医療 今月のテーマ『脂質異常症の新しい基準』

2007年4月、5年ぶりに動脈硬化性疾患予防ガイドラインの改訂版が発表されました。「高脂血症の診断基準」が「脂質異常の診断基準」とされ、「高脂血症」という記載が「脂質異常症」と変更されました。また、従来の指標だった総コレステロール値が診断基準から除外され、LDLコレステロール値140mg/dlが採用されました。

新基準

脂質異常症の診断基準(空腹時採血)

高LDL-コレステロール血症 LDL-コレステロール≧140mg/dl
低HDL-コレステロール血症 HDL-コレステロール<40mg/dl
高トリグリセライド(中性脂肪)血症 トリグリセライド≧150mg/dl

この診断基準は薬物療法の開始基準を表記しているものではない。
薬物療法の適応に関しては、他の危険因子も勘案し決定されるべきである。

HDL、LDLとは

コレステロールや中性脂肪は、「リポたんぱく」という特殊な粒子に入り込んだ状態で血液中に存在します。リポたんぱくには大きく分けて4つのタイプがあり、HDL、LDLはこれらのリポたんぱくの種類です。LDLはコレステロールを全身の組織に運びます。増えすぎると血管壁に沈着して動脈硬化を促進するため、「悪玉コレステロール」と呼ばれています。HDLは全身の余分なコレステロールを回収して肝臓に運びます。動脈硬化を防ぐように働くので、「善玉コレステロール」と呼ばれています。

なぜ基準が変更されたのか

総コレステロールはLDLコレステロール値と相関しますが、日本ではHDLコレステロールが高いために総コレステロールが高いという方も大勢います。LDLコレステロール値で判断したほうが合理的ということで、今回の改訂において総コレステロール値は診断基準から除外されました。
また、低HDLコレステロール血症も動脈硬化の要因となるため、「高脂血症」という名称から「脂質異常症」に変更されました。

なぜ脂質異常症はよくないのか

脂質異常症は動脈硬化の危険因子の中でも最大の要因と言われます。
血管壁にコレステロールなどが沈着した塊をプラークと呼びます。血液中に増えすぎたコレステロールは比較的短期間に血管壁にたまるため、繊維化する時間が不足して、柔らかく壊れやすい不安定なプラーク(脂質プラーク)が形成されます。これが破れると破れた部分を修復するため、血小板が集まり血栓ができます。この血栓が血管に詰まると血液はその先に流れなくなり、血流の途絶えた組織や臓器は壊死します。脂質異常症をそのままにしておくと、体のさまざまな血管で動脈硬化が進行します。脳動脈が詰まれば脳梗塞、心臓の冠動脈が詰まれば心筋梗塞を発症します。脳梗塞や心筋梗塞は日本人の死因の上位を占める疾患です。
このように、脂質異常症を放置すると動脈硬化が進行し、生命の危険にさらされたり、後遺障害が起こったりするのです。

治療

脂質異常症の治療法には、大きく分けて生活習慣の改善と薬物療法があります。特に基本となるのが生活習慣の改善です。冠動脈疾患の既往のない方は、その発症を防ぐ「一次予防」としての治療を行うことになり、まず生活習慣の改善に取り組むのが基本です。冠動脈疾患の既往のある方は「二次予防」として再発を予防するための治療を行います。通常は生活習慣の改善と同時に、薬物療法を検討することになります。
生活習慣の改善の中で基本となるのが食事療法と運動療法です。この二つを中心に、禁煙や適正体重の維持、ストレスの回避などに取り組むことになります。

1. 食事療法

(1) 全体的に食べ過ぎないよう、総摂取エネルギーの適正化を図る。
適正なエネルギー摂取量は身長や活動強度、年齢、性別などによって異なりますが、まずは標準体重を求め、それから適正エネルギーを計算します。
標準体重(kg)は身長(m)×身長(m)×22、適正エネルギー摂取量(kcal)は標準体重(kg)×25~30で計算します。
<例:身長172cmの場合>
標準体重は、1.72×1.72×22=約65kg
適正エネルギー摂取量は、65×25~30=1,625~1,950kcal となります。
(2) 糖質や脂質、たんぱく質の質と量を調整する。
ガイドラインでは、適正摂取エネルギー量の60%を糖質で、15~20%をたんぱく質で、20~25%を脂質でとることを勧めています。また、脂肪の種類では、動物性脂肪に多く含まれる飽和脂肪酸をとりすぎると脂質異常症を悪化させることになるので注意が必要です。青魚や植物油などに含まれている不飽和脂肪酸を多くとるようにしましょう。
(3) 食物繊維の摂取を増やす
一日25g以上はとるように心がけます。野菜や海草、こんにゃく、きのこなどに多く含まれています。
(4) コレステロールが高い場合はコレステロールを多く含む食品を制限する。
まずは一日300mg以内に抑えるようにします。鶏卵や魚の卵、内臓や皮にはコレステロールが多く含まれているので控えめにしましょう。
(5) 中性脂肪が高い場合はアルコールや糖質の摂取量を制限する。
飲みすぎは摂取エネルギーを増加させるだけでなく、中性脂肪の値に悪影響を及ぼします。また、糖質のとりすぎは中性脂肪を増加させます。

2. 運動療法

(1) 有酸素運動
脂質異常症の運動療法では「脂肪を消費し脂質の代謝を促す運動」を行うのが原則です。そのためには有酸素運動が適しています。
(2) 適切な運動強度
運動の強度はその方の体力に合わせることが必要です。やや汗ばむ程度の運動強度は安全性も高く、長く続けやすく、大きな効果が得られます。
(3) 出来れば20分以上続ける。
効率よく脂肪を燃焼させるためには、一回の運動継続時間は20分以上が好ましいとされています。
(4) 週3回以上のペースで
3日以上間を空けてしまうと、運動によって得られた効果が元に戻ってしまいます。最低でも週3回のペースを維持しましょう。
(5) 運動療法開始前にメディカルチェックを行う。
運動療法をはじめる前には、運動ができるか、運動の強度などについて医師の指示を受けましょう。

おわりに

日本では脂質異常症のある方が増加しています。最近の大きな問題は、若い世代の脂質異常症が増えていることです。原因として、食生活の変化が最も大きいと言われています。脂質異常症は自覚症状がないために危険性を認識できない場合も多いのですが、放置するとさまざまな問題が起こりやすくなります。生活習慣を改善して健康な生活を送りましょう。

参考文献
食事指導のABC(日本医師会)
日本人の食事摂取基準(第一出版)
別冊NHK きょうの健康 高脂血症 血液ドロドロを治す(NHK出版)
別冊NHK きょうの健康 メタボリック・シンドローム 減らそう!内臓脂肪(NHK出版)
別冊NHK きょうの健康 油断大敵!内臓脂肪 動脈硬化予防のガイドブック(NHK出版)
出典
動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2007(日本動脈硬化学会)
監修
救急救命東京研修所 教授 名倉 節

●情報提供:T-PEC保健医療情報センター

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