知っておきたい!健康と医療 今月のテーマ『冬のかゆみ』

はじめに

冬になると、皮膚がかさついてかゆみが出ることが多くなります。その原因の多くは乾燥です。放っておくと、痒くてよく眠れなかったり、かきすぎて湿疹ができたりするなど、さらに症状を悪化させてしまうこともあります。一般的には、加齢とともにその傾向が強くなりますが、最近では年代を問わず、乾燥によるかゆみを訴える人が増えています。今回は、このような冬のかゆみについてお話したいと思います。

健康な皮膚とは

皮膚は、表皮、真皮、皮下組織の3つの層から成り立っています。一番外側にある表皮は、細胞が何層も積み重なってできており、新しい細胞が作られると、古い細胞は徐々に上のほうへと押し上げられ、やがて角質細胞になります。角質細胞は、最終的に垢やフケになって皮膚から剥がれ落ちていきます。
この角質細胞が10~15層ほど積み重なってできているのが角層です。
健康な皮膚では、角層の表面は皮脂膜(汗腺から分泌された汗と、皮脂腺から分泌された皮脂によってできている)で覆われており、また皮膚の内部にある角質細胞間脂質(角質細胞の間にあるセラミド等からなる脂質)や天然保湿因子(角質細胞にあるアミノ酸等からなる物質)によって、ウイルスや花粉等の異物の侵入を防ぐとともに、しっとりとうるおいが保たれています。

皮膚の乾燥の原因

加齢
新陳代謝が低下することで、角質細胞間脂質や天然保湿因子などが少なくなります。また、皮脂腺や汗腺の働きが低下し、皮脂膜の元になる汗や皮脂の分泌量が減り、皮脂膜が作られにくくなります。
空気の乾燥
空気の乾燥によって、皮膚の水分が蒸発しやすくなります。暖房器具を使用すると、さらに乾燥が進みます。
気温の低下
気温の低下に伴い、皮脂腺や汗腺の働きが悪くなり、角質細胞間脂質や天然保湿因子も減少します。
洗いすぎ
入浴時に体を洗いすぎると、角質細胞が剥がれたり、角質細胞間脂質や天然保湿因子が流れ出たりします。若い人のかゆみの原因の多くは、この洗いすぎだと考えられます。

乾燥とかゆみ

汗腺や皮脂腺が少ない、衣服との摩擦が多く水分を取られやすいといった理由から、体の中でも、腕の上部から肩にかけて、すね、太もも、わき腹、腰などが特に乾燥しやすい部分です。
皮膚が乾燥すると、角層の細胞が乱れて隙間ができ、皮膚を守る機能が低下して、刺激を受けやすくなります。外部から刺激を受けて表皮に炎症が起こると、かゆみを感じる神経(C線維)が皮膚の表面近くまで伸び、わずかな刺激でもかゆみを感じるようになります。また、刺激を受けたC線維がサブスタンスPという物質を出し、皮膚内の肥満細胞を刺激することで、ヒスタミンが放出されます。さらに、ヒスタミンはC線維を刺激し、かゆみを生じさせるという悪循環を引き起こします。
皮膚の乾燥を改善しない限り、かゆみを生じやすい状況は変わりません。かゆいからといってかくと、それが新たな刺激となり、さらにかゆみが強くなります。さらにかき続けると、赤みのある湿疹(皮脂欠乏性湿疹)ができてしまうことがあります。湿疹をさらに引っかいているとかゆみの強い円形の湿疹(貨幣状湿疹)ができたり、小さな水ぶくれができて破れるとその浸出液がアレルゲンとなって、体のあちこちに湿疹(自家感作性湿疹)が現れたりすることもあります。

対策

冬のかゆみに対しては、できるだけ皮膚の乾燥を防ぐことが重要です。適切な保湿を行えば、C線維も元の長さに戻り、改善されていきます。

1. 保湿剤の使用

保湿剤を使って、乱れた角質を整えることが乾燥対策の基本です。保湿剤で皮膚の表面に人工的な膜を作り、外部からの刺激や水分の蒸発を予防します。

種類

保湿剤は、水分や油分の含有量によって以下のような種類があります。

軟膏
油脂をベースとするタイプ
クリーム
軟膏よりべたつかず、ローションより水分が少ないタイプ
ローション
さらっとした水分の多いタイプ
ゲル剤
固形から半固形状で、塗ると体温で溶けて液体になるタイプ

水分が多いタイプのほうが使用しやすいですが、刺激が強いため、かき傷がある場合などには向きません。その点、軟膏はべたつきますが、カサカサしていてもジクジクしていても使用できるため、治療ではよく使われます。また、配合されている成分によって、次のような種類に分類できます。

尿素・へパリン類似物質入り
水分をため込みうるおいを与える、尿素は角層を軟らかくして肌を滑らかにする効果もある
セラミド入り
角層に入り込み、不足したセラミドを補う
ワセリン入り
皮膚表面を油膜で覆い水分の蒸発を防ぐ

市販のものでもかまいませんが、実際に使用してみて自分にあったものを選びましょう。

使用方法

1日最低2回(朝晩)、たっぷりと塗ります。入浴後は、角層が水分を吸収していますが、時間が経つと水分が蒸発して余計に乾燥してしまうので、なるべく10分以内に塗るようにしましょう。また、強い力ですり込むと皮膚を刺激してしまうため、なじませるように手のひらでやさしく塗りましょう。かゆみが治まったからといってすぐに使用をやめるのではなく、皮膚の状態をよりよくするために、使い続けるほうがよいでしょう。

2. 日常生活上の注意

入浴
熱い湯に長くつかると、皮脂膜や角質細胞間脂質が溶け出してしまうので、お湯の温度は38~40度位にし、長湯は避けましょう。保湿効果がある入浴剤を使用するのも効果的です。ただし、イオウ入りの入浴剤はかえって肌を乾燥しやすくするので避けましょう。石鹸を使いすぎると、皮脂膜などが剥がれてしまうことがあるので、全身を石鹸で洗うのは週1~2回程度を目安にし、毎日洗うのは汚れやすい部分(顔、首、陰部、手足など)にとどめましょう。乾燥肌用の弱酸性、保湿成分入りの石鹸もあるので活用するとよいでしょう。体を洗う時は、タオルなどでゴシゴシこすると角質が乱れるので避け、手のひらでやさしく洗うようにし、石鹸やシャンプーを使用した後は、すすぎ残しがないようにしましょう。入浴後はバスタオルで押さえるようにしてそっと水分をふき取ります。
環境
エアコン、こたつ、電気カーペットなどを過度に使用すると、空気が乾燥します。設定温度を低くしたり、長い時間つけたままにしたりしないなどの注意や、加湿器を使用するなどの工夫が必要です。
衣服
肌に直接触れる下着類は、なるべく刺激の少ない滑らかな素材(木綿や絹など)を選びましょう。けばだった線維やゴワゴワ、チクチクする素材は皮膚を刺激するので、直接肌に触れないようにし、ゴムがきついものや体にぴったりとした衣服も皮膚への刺激になりやすいので避けたほうがよいでしょう。また、静電気が刺激となってかゆみが起こることもあるので、静電気が起きやすい素材にも注意が必要です。
食生活
かゆみを引き起こすヒスタミンを放出させる作用のある食べ物(魚介類、卵白、トマト、イチゴ、チョコレートなど)や、ヒスタミンやヒスタミンに似た物質を含む食べ物(たけのこ、ほうれん草、なす、さといも、サバなど)はとり過ぎないようにしましょう。体が温まって血行がよくなると、かゆみが強くなるので、酒類や辛い食べ物のとりすぎにも注意が必要です。

受診の目安と治療

これまで述べたような様々な対策をとっても、症状が改善しない場合や、市販薬を1週間程度使用しても赤みやかゆみが治まらないときは、皮膚科を受診したほうがよいでしょう。
皮膚科では、乾燥に対して保湿剤を使用すると同時に、ステロイド薬(炎症を鎮め免疫反応を抑える)、非ステロイド抗炎症薬(皮膚の炎症を鎮める)、抗ヒスタミン薬(炎症を起こす刺激物質であるヒスタミンの作用を抑える)、抗アレルギー薬(アレルギー反応を起こす化学物質の分泌を抑えて、かゆみや炎症を抑える)などを用いて、湿疹のかゆみや炎症を抑える治療を行います。
さらに、頻度は高くありませんが、腎臓病、肝臓病、更年期障害、ストレスなどが原因でかゆみが起こることがあります。このような場合は全身検査をして、原因となっている病気の治療をしなければなりませんが、人の皮膚は敏感で、皮膚の症状が一番初めに出る場合もありますので、まずは皮膚科で相談してもよいでしょう。

おわりに

肌の新陳代謝は睡眠中やリラックスした状態で活発になると言われています。不規則な生活やストレスを避け、運動、栄養バランスに留意するなど、日常生活で肌を守るための工夫をし、かゆみを防ぎましょう。

参考文献
今日の皮膚疾患治療指針 第3版(医学書院)
標準皮膚科学 第5版(医学書院)
標準脳神経外科学 第11版(医学書院)
皮膚科診療プラクティス 7.皮膚疾患患者指導ガイド(文光堂)
監修
救急救命東京研修所 教授 名倉 節

●T-PEC保健医療情報センター 発行

サイドメニュー