2020年1月
昨年(2019年)は5年に1度、住宅関連の基幹調査である「平成30年住宅・土地統計調査」(総務省統計局)[PDF:730KB]が発表される年でした。その第一報が令和に入るGWの直前4月末に発表されました。
基幹調査というのは、2019年に厚生労働省のある基幹調査で不適切な調査が行われていたことが発覚し、 国会でも大混乱になったので、記憶に残っている方も多いのではないでしょうか?
国や地方公共団体など行政が政策を考える際に基準とする“基幹”の調査になります。ですから、私たちにとってもとても重要な調査です。奇しくも2020年は基幹統計の王様である国勢調査が5年に1度行われる年ですね。
さて、その中でここ数回注目されているのが、「空き家」の動向です。
今回のコラムでは、私たちにとって人生最大の支出であり、財産でもある住宅に影響の大きい、空き家問題について見ていきたいと思います。
なぜ、空き家が問題になるのか?
そもそも、なぜ、空き家が問題になるのかというと、空き家が適切に管理されていないことで、老朽化による倒壊や治安の悪化、放火や自然災害の未対策などの危険度が増し、近隣の住民に深刻な不安や被害をもたらす「外部不経済(※)」の状態になるからです。
つまり、自分たちの家の存在が近所の迷惑になってしまうと言うことです。
空き家問題の相談を受けていると、「自分で対処できないこと」と「自分で対処できること」が混在し、問題が複雑化していることで決断ができず、解決を一層難しくしている特徴があることがわかります。
「自分で対処できないこと」に対応するためには、隣近所が空き家などになってしまうことで将来の地域の住環境がどうなるのかを確認する必要があります。また、「自分で対処できること」への対処法は、介護や相続など将来の家族のライフプランに基づき、家をどうしていくかを決めることです。
空き家はいつ頃から増えているの?
まず、「自分で対処できないこと」、空き家の状況を確認しましょう。
下のグラフ(=総住宅数と総世帯数の推移)を見てみると、前回の東京オリンピックの前の年1963 年までは総世帯数が総住宅数を上回っていましたが、次の調査年である1968 年には逆転し、その後は総住宅数が総世帯数を上回っています。つまり、50年以上前に数値的には住宅は足りていたと言うことです。ただし、まだまだ人口が増加していた時代です。また、当時の住宅が質的に脆弱だったという問題もありました。景気対策の一環で住宅が作り続けられていたという経緯もあります。
ただ、2005年以降に人口減少が顕在化した現在では空き家数は約845万戸と、前回2013 年の調査と比べて約30万戸(3.6%)増えています。総住宅数に占める空き家の割合(空き家率)は 13.6%(+0.1%)となり、過去最高になりました。
その内訳をみると、最も多いのが「賃貸用の住宅」で432 万7千戸(総住宅数に占める割合 6.9%)、次に使い道がわからない実家などの「その他の住宅」で 348 万7千戸(同5.6%)となっています。増加率は「賃貸用の住宅」が+0.8%に対して、「その他の住宅」が+9.5%と大幅に増加しており、この「その他空き家の増加」が問題視されています。
空き家率はどのように計算するのか?
以下のように計算します。
空き家率 =空き家数 ÷ 住宅戸数
ですから、空き家率を改善&減らすためには、分子を減らすか、分母を減らすことをすれば良いということになります。
つまり、入居者を増やして、分子である空き家数を減らすか、空き家を壊して、分子の空き家と分母の住宅戸数を同時に減らせば良いということです。
なぜ、空き家が増えるのか?
空き家になる理由は、家に対するニーズの減少、つまり、買いたい人より売りたい人の方が多くなる=需給関係の悪化が主な理由です。
高齢化により不要な家が増え、少子化に伴う人口減少により人自体が減っているという社会全体の問題が根底にあります。大変残念ですが、今後も高齢化と人口減少という状況は続くことが予想されていますから、問題解決は簡単ではないことがわかります。
公的な介護や医療等の問題と同時に、街のインフラ自体も老朽化していて、適切な補修などを行わないと激甚化する災害に対応できなくなりつつあるという問題もあります。
その対策として、「今まである街を小さくして、効率化していこう」というコンパクトシティ&ネットワークという政策が進行中です。行政も老朽化した街のインフラ維持や社会保障費削減のため、効率化を計っているんですね。
では、どうすれば、良いか?
次は、「自分で対処できること」を考えてみましょう。
つまり、「長い目で見て、家をどうするのか?」を決めておくことが大事です。仮に実家に誰も人が住まなくなった場合、①そのまま維持するのか②賃貸などに利活用するのか③売却するのかという3つの選択肢になると思います。決断できなかったり、問題を先送りしたりし続けると①そのまま維持するという選択となり、今後も適切に管理をし続ける=空き家問題を先送りするということになります。②利活用と③売却については、現時点でできるかどうか、将来的にどうかも確認できると良いでしょう。
最後に、この空き家問題が大きく取り上げられ、世の中で騒ぎ出したのは、2014年発表(2013年調査)時からでした。
みなさんには、今後、適切なタイミングで適切な行動を取っていただくために、「なぜ、このタイミングで世間を騒がせたのか?」を知っていただく必要があります。
実は、前の図(空き家数及び空き家率の推移)を見ていただくとわかるのですが、前々回2009年発表(2008年調査)時の空き家数や空き家率の方が前回2014年発表(2013 年調査)時より増加の幅が大きくなっています。
これは個人的な見解なのですが、2008年9月15日に起きた リーマンショック により、住宅取得を含めた景気刺激策を取ったため、時の政府が大きな声を上げられなかったのではないか、と感じています。
もちろん、このことは知識を持ち、しっかり情報を得ていた方は気がついたはずです。
私自身も専門家の立場から、長い目で見て、空き家の状況が酷くなり、世の中で騒ぎが大きくなると思えたので、2010年頃から個々の生協さんの講演会等でそのようなお話をさせていただいていました。
このように、しっかりとした情報を定期的に適切に得れば、わずかでも将来を先読みができ、早め早めの行動を取ることができます。
空き家は周りの環境に強い影響を与えます。一度、空き家になってしまうと問題解決が難しくなり、問題自体を先送りせざるを得なくなるという特徴を持っています。
本コラムや講演会などから、適切な情報を聴き、行動できるよう、日頃から心掛けておきましょう。
(※)外部不経済……ある経済主体の行動が、その費用の支払いや補償を行うことなく、他の経済主体に対して不利益や損失を及ぼすこと。例えば、公害。
出典:三省堂「大辞林(第三版)」
- 佐藤 益弘
- プロフィール(1970年生まれ。横浜市在住。産業能率大学 兼任講師)
2000年より金融商品の販売を伴わないライフプランFP®として、相談&実行サポートを中心に活動。優良な実務家FPネットワーク確立のため、マイアドバイザー®(年間閲覧者100万人超)を運営。大手五大新聞社主催の講演会や公官庁を通じた情報提供や相談、NHK「クローズアップ現代」などのTV出演等も行う。日本大学法学部卒業後、会社員時代にマンション開発に従事していたため、住宅購入やリフォーム、空き家対策など不動産分野や相続関連のご相談が多い。趣味は占い(気学)を利用したワンちゃんとの旅行。健康維持のため定期的に献血活動も行う。