2020年3月
はじめに・・・自己(事故)体験から
2019年1月のある朝、私は自転車同士の衝突事故に遭い、左足のアキレス腱を断裂しました。事故直後は大したことはないと思っていたのですが、結果的に本格的な仕事復帰まで半年程度の時間が掛かってしまい、仕事上で得た大きなチャンスも失い、かなり業績に響きました。
日頃から自転車通勤をしていたこと、また、FP(ファイナンシャルプランナー)という仕事柄、この様な事故に遭った際の対処については知っているつもりでしたが、事故の当事者になった後に気づいたことも多々ありました。
例えば、インターネット上にある自転車事故に関する情報は、死亡事故など高額な賠償や訴訟関連の事柄が多く、発生頻度が高い傷害事故に関する情報や示談交渉に関する情報はほとんどありませんでした。そのため情報を収集するだけでもかなり骨が折れました。
情報があふれている時代に、情報がないことでとても不安に感じました。結局、私自身はアナログ的な手段で、面識のある弁護士や損害保険に詳しいFPから情報を手にしました。
自転車などの交通事故の被害者、加害者のどちらになってしまっても、知識があるからと言って、冷静に判断したり、行動したりするのはとても難しいと感じました。
みなさんも頭ではわかっていても感情が邪魔をし、中々思うような行動ができないということがあると思います。
事故当時は、精神的・経済的なマイナスがとても大きく、やはり信頼できるサポーターが必要だと痛感しました。
自転車事故の現実
実際の自転車事故はどんな感じで起きているのでしょうか?
まずはデータを確認してみましょう。
国土交通省「自転車の運行による損害賠償保障制度のあり方等に関する検討会(2019年1月11日)」の自転車事故の損害賠償に係る現状についてという資料によると、事故件数自体は年々減少しているようです。
ただ、私の肌感覚なのですが、実際には警察に通報せずまたはできずに泣き寝入りしている被害者の方も多いような気がします。実際に6分に1件のペース、年間90,000件、自転車事故は発生しています。
自転車の利用促進が叫ばれ出した2016年(平成28年)で下げ止まり感があり、2017年(平成29年)から、私の遭ってしまった「自転車相互」「自転車対歩行者」事故の件数ともに徐々に増加傾向であることがわかります。
また、第1当事者(加害者)の年齢層は高校生である16~19歳が最も多く、20歳未満の未成年者が全体の38%を占めています。通学などで利用するケースも多いことが影響しているのでしょうし、自動車の運転同様、若いが故のスピードの出し過ぎや過信ということもあるのだと思います。未成年の場合、保護者の管理監督責任を問われることもあるので、注意が必要です。
私の場合はケガだったので大きな賠償額(示談額)にはなりませんでしたが、最近の自転車事故の賠償事例を見ても、死亡や障がいが残る事故になると高額な賠償責任になるケースもあります。加害者が未成年の場合は、保険加入などしっかりとした対応をしていないと、本人だけでなく家族も一生を棒に振ってしまうほどの経済的な負担を引きずることになりそうです。
加入義務化が進む自転車保険
この様な状況の下、自転車保険(賠償責任保険)の加入を義務化する地方自治体が増えています。国(所管である国土交通省)も、自転車活用推進計画(平成30年6月閣議決定)において、地方公共団体に対して、条例等による損害賠償責任保険等への加入促進を図ることを要請しており、2019年(平成31年)2月に、各都道府県・政令指定市の長宛てに「自転車損害賠償責任保険等への加入促進に関する標準条例について(技術的助言)」という文書を発信しています。
東京都でも2020年4月より自転車保険(賠償責任保険)の加入が義務化されますから、今後、他の地方公共団体でも同様の動きは加速することと思われます。
実際に、自転車保険(賠償責任保険)の加入が義務化されることにより該当するエリアの自転車保険の加入率は確実に増えている一方、罰則規定がないため、義務化地域でも統計上加入していない方が30%程度(※)いるというデータも出ています。
※出典:国土交通省「自転車の運行による損害賠償保障制度のあり方等に関する検討会(2019年1月11日)」資料2:自転車事故の損害賠償に係る現状について(P11)
親には子どもに対する監督義務責任がありますから、今後、お子さまが保険に未加入で事故を起こした場合、この責任を果たしていないと判断され、厳罰化されるケースも出てくることでしょう。
そもそも自転車利用が増えている理由
理由はいくつかありますが、大きな理由の1つとして、低炭素化社会=エコ社会実現のため、自転車の活用を促進させたいという行政の意向があります。
2015年12月に第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)により採択されたパリ協定により、わが国は、2020年までに自然エネルギーの発電量を8パーセントに引き上げ、2030年までに、2013年比で、温室効果ガス排出量を26%削減することになりました。
このため、その目標に向けた施策として、国も自転車活用推進計画(平成30年6月閣議決定)を設定し、自転車通勤や都市部ではシェアサイクルなどを増やすような動きになっています。
また、高齢化に伴う健康増進意識の向上、また自動車免許の自主返納後の移動手段として、自転車利用が増えており、高齢者が関与する自転車事故が多いという警視庁のデータもあります。
まとめ
エコや健康増進の観点からも自転車利用は今後も促進されていきます。その分、私が遭ったような個々人の注意だけでは避けられない事故に遭ってしまう確率も上がってしまいます。
まずは、ご自身やご家族が自転車事故に遭ってしまい被害者になってしまったケースだけでなく、事故を起こしてしまった=加害者になってしまった際の対応について意識付けもしましょう。私の相手の方は現場から逃げずにいてくれたので事故で済みましたが、もし、逃げていたら(刑事)事件になっていました。ですから、事故直後、気が動転してしまうことは理解出来ますが、お互い誠実に対応されると冷静に判断し対処もできると思います。
そして、最悪の事態も想定し、事故に対応できる自転車保険(賠償責任保険)に加入しているか事前に確認しておきましょう。私の事故の相手の方は、賠償責任保険には入っていたけれども、自転車に関しては適用外だったため私自身も示談交渉でとても苦労したという苦い経験があります。賠償責任保険は単独で加入するより、気付かぬ間に他の保険の特約として加入しているケースもあります。加入している保険会社や共済団体に確認し、もし未加入であれば必ず加入しましょう。
- 佐藤 益弘
- プロフィール(1970年生まれ。横浜市在住。産業能率大学 兼任講師)
2000年より金融商品の販売を伴わないライフプランFP®として、相談&実行サポートを中心に活動。優良な実務家FPネットワーク確立のため、マイアドバイザー®(年間閲覧者100万人超)を運営。大手五大新聞社主催の講演会や公官庁を通じた情報提供や相談、NHK「クローズアップ現代」などのTV出演等も行う。日本大学法学部卒業後、会社員時代にマンション開発に従事していたため、住宅購入やリフォーム、空き家対策など不動産分野や相続関連のご相談が多い。趣味は占い(気学)を利用したワンちゃんとの旅行。健康維持のため定期的に献血活動も行う。