FPによる知って得する!くらしとお金の話

第2回

「負担」の能力と公平性を考える

コープ共済について

2021年1月

二つの『方針』が登場

昨年12月、新型コロナ感染の第三波が猛威をふるう中、税と社会保障に関して、今後の動きを左右する二つの「方針」が政府・与党から示されました。まず、12月10日、与党の2021(令和3)年度『税制改正大綱』が決定・公表され、これを受けて同21日、同じ内容の『令和3年度税制改正大綱』が政府案として閣議決定されました。国会の勢力関係から見て、新年度に入るまでに、その内容の通りに決まることになりそうです。

もう一つは、12月15日に閣議決定された『全世代型社会保障改革の方針』。こちらは、2019(令和元)年10月の消費増税実施がほぼ確定した段階で、民主党政権時代から続いてきた「税と社会保障の一体改革」が一区切りついたと捉え、これに代わる新たな社会保障政策の立案をとの観点から、同9月に安倍政権が設置した「全世代型社会保障検討会議」の結果です。

ただし、この会議での“検討”はこれで終わりではないようです。同方針の末尾(第4章 終わりに)が、『・・・「全世代型社会保障」の考え方は、今後ともに社会保障改革の基本であるべきである。本方針を速やかに実施するとともに、今後そのフォローアップを行いつつ、持続可能な社会保障制度の確立を図るため、総合的な検討を進め、さらなる改革を推進する』と締め括られていますから、まだまだ先がありそうです。

とりあえず内容をなぞってみると・・・

では、上記二つの内容をひと通り追ってみましょう。

まず、税制改正大綱のほうですが、別表の通りコロナ禍で打撃を受けた家計や企業を一時的に支える減税措置が目立つものの、やや地味な感じで、あまり大きな話題にはなりませんでした。

別表:2021(令和3)年度 税制改正大綱の主な内容

住宅ローン減税
  • 控除を通常より3年長く(13年間)受けられる特例措置の適用期限

    原則2020年末までの入居→2022年末まで2年間延長

  • 減税を受けられる住宅の要件

    50平方メートル以上→40平方メートル以上に緩和

  • 所得要件の厳格化

    40m2以上50m2未満に限り、年間所得1000万円以下に
    (50m2以上は、従来通り年間所得3000万円以下)

固定資産税の軽減
  • 2021年度のみの負担軽減措置

    課税額が2020年度を上回る場合→税額を据え置き2020年度と同額

    課税額が2020年度より減る場合→課税額を引き下げる

教育資金、結婚・子育て資金の一括贈与の非課税措置
  • 適用期限を2年間延長

    ただし、節税的な利用を防止する観点から、受贈者が贈与者の孫等である(世代を飛ばした)場合、贈与者の死亡時の遺産残高にかかる相続税に2割を加算

エコカー減税
(自動車重量税)
  • 2023年4月末まで2年間延長
  • クリーンディーゼル車の一律免税措置を廃止

    ただし、燃費基準達成車種は2年間に限り免税を継続

  • 環境性能割の軽減措置期限

    2021年3月末まで→2021年12月末まで9カ月間延長

市販薬購入の税軽減
  • 5年間(2026年末まで)延長

    対象をより効果的なものに重点化、手続きを簡素化

一方、「全世代型社会保障」のほうは、議論が行われている途中から、75歳以上の医療費負担増の問題がクローズアップされ、大きな関心を呼びました。当初、この検討会議では、「労働(働き方)」「年金」も含めた幅広い分野が対象だったのですが、2020年に年金や働き方の改定が具体的に進んだこともあり、今回の“方針”の内容は、「少子化対策」と「医療」の2本柱となっています。

このうち、「少子化対策」では、

  1. 1不妊治療への早期保険適用
  2. 2待機児童の解消
  3. 3男性の育児休業の推進

が打ち出されました。

不妊治療の保険適用に関しては、2021年度中に内容を詰め2022年度からの実施予定で、それまでは現行の助成制度の拡充などで対応するとのことです。また、依然1万2千人いるという待機児童については2021年度からの4年間で約14万人分の受け皿を整備するとし、この財源確保の一環で、「児童手当」の見直し(主たる生計維持者が年収1200万円以上の場合、特例給付の対象外になる)が行われるようです。

さらに、10%以下の低水準にとどまる男性の育児休業取得を促進するため、事業主に対し、本人や配偶者が妊娠・出産したと申し出た労働者への休業制度の周知や、研修・相談窓口の設置により育休を取りやすい職場環境を作ることなどを義務付ける方向で法整備を行い、2022年度から実施する予定です。

さて、不妊治療の経済的負担を軽減し、保育の不安を無くし、育児休業をなんとしても取得させる・・・いわば令和版“産めよ・増やせよ”政策は功を奏するのでしょうか。少子化をなんとかせねば、という危機感はわかるのですが、残念ながらこの策は、出だしで大きくつまずいたようです。コロナ禍の影響でしょうが、2020年の出生数が85万人を割る見通しとなり、かつ今年は80万人を割り込む可能性があると、押し迫った12月28日に報道されました。国立社会保障・人口問題研究所の2017年の予測では、84万人台になるのは2023年とされていましたから、少子化が予想以上に加速していることになります。

負担の“公平”性が進む?

“方針”のもう一つの柱である医療分野では、現役世代の負担上昇を抑えながら、全ての世代の人が安心できる社会保障制度を構築するとして、こちらも3つの政策が打ち出されています。

  1. 1医療提供体制の改革
  2. 2後期高齢者の負担割合の引き上げ
  3. 3紹介状のない患者の定額負担の拡大

このうち、前述のように②が大きな対立軸を生みました。現行は(現役並み所得者を除いて)1割負担であるところを2割負担に引き上げるという政府の方針につき、まずこれを実施するかどうかが議論になり、さらに後期高齢者の収入のどの辺りにラインを引いて、1割負担と2割負担に分けるかが問題となりました。そして最終的には、菅総理と与党・公明党の山口代表が、単身世帯で年収200万円以上(複数世帯では後期高齢者の年収合計が320万円以上)を2割負担とすることで合意し、これが“方針”に盛り込まれました。実際の引き上げは2022年度後半となる模様ですが、これにより75歳以上の23%、約370万人が2割負担に移行することになります。

2022年から団塊の世代が75歳に到達し始め、以降、後期高齢者が急増するのは確実です。そして、後期高齢者がその下の世代に比べ多くの医療費を使っていることも確かです。このため、後期高齢者の医療制度を部分的に支えている現役世代の負担が大きく上昇することが想定されます。今回の改定は、その上昇を少しでも抑制しようということで取られた方策であり、これはこれで仕方のないことなのでしょう。

この点について、“方針”は次のように表現しています。『・・・若い世代は貯蓄も少なく住居費・教育費等の他の支出も大きいという事情に鑑みると、負担能力のある方に可能な範囲でご負担いただくことにより、後期高齢者支援金の負担を軽減し、若い世代の保険料負担の上昇を少しでも減らしていくことが、今、最も重要な課題である』(下線=筆者)。

また、“方針”が閣議決定される直前の検討会議を何らかの事情で欠席した有識者議員である日本経団連会長の中西宏明氏が、欠席の代わりに寄せたメッセージには、『・・・急速な少子高齢化が進展するなか、全ての世代、政府、企業が公平に支えあう真の意味での全世代型社会保障を構築するため、引き続き不断の改革をお願いいたします』(下線=筆者)とありました。

いずれも、ごく当然のことを述べているように見えますが、しかし、気になるところがあります。

何処(誰)に“ゆとり”がある?

まず、“方針”のほうですが、下線部分には「応能負担」の考え方が入っています。単身で200万円以上、複数世帯で320万円以上という高齢者世帯には、どれほどの負担能力があるのでしょう。そして、この負担能力という点に着目すれば、年金や医療の話となるといつも強調される「世代」ということのほかにも、区分の軸が存在するように思います。

現在、コロナのワクチンや特効薬あるいは経済の回復への期待なのかどうか、株価が上がっています。思えば、アベノミクスが展開されたこの7~8年、日銀マネーや年金マネー(公的資金)がずっと株価を支えていました。そして、値上がり益や配当金に対する税金は、ずっと低率のままです。これにより延々と恩恵を受け続けて来ている人々や企業への課税強化は、なぜ行われようとしないのでしょうか。社会保障の領域で言われる「応能負担」が、なぜ税金の分野では言われないのでしょう。

整理をしてみましょう。社会保障の“方針”通りに事態が進むと、当然のことながら多くの高齢者世帯がより疲弊します。さらに高齢者世帯には、近々に、マクロ経済スライドの「改定」に伴う年金カットが待ち受けています。一方、現役世代も抑制されるとは言え社会保険料負担は増えますから、こちらもその分疲弊します。

そして、“方針”を作った検討会議の構成メンバーたちは、最後の会議議事録を見ると、一様に自画自賛していますので、こういった流れが今後も続くということでしょう。さらに、そういう動きを横目で見ながら、毎年「税制改正大綱」を作る政府や与党の税制調査会は、より疲弊が進むであろう低所得層への配慮を全く見せることはありませんでした。それどころか政府税制調査会では、論議途上の昨年夏、早期の消費税再増税を主張する委員も現れています。

コロナ禍は、格差拡大をよりあからさまに露呈させたと言われています。また、2019年の消費税の増税は、所得が少なければ少ないほど負担率が高くなる逆進性を、より強化した側面を持っています。その消費税の導入(1989年)以降、消費税で得られた税金額と同期間の法人税の減収額はほぼ同等です。その結果として、2019年度に500兆円を遙かに超えたという企業の「内部留保」があります。国の一般会計の予算が年間100兆円を突破したと言って騒いでいる中での500兆円です。

“負担能力のある方(存在)に、可能な範囲で「公平」にご負担いただく”ことを、本気で考えなければいけない時期に来ていると思います。

野田 眞(のだ・まこと)
(1948年 鳥取市生まれ。東京都在住)
生活経済ジャーナリスト。講演・学習会講師、メール情報誌・ネットサイト等へ寄稿などで活動中。

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