FPによる知って得する!くらしとお金の話

第3回

改革・コロナ禍と「自助」

コープ共済について

二つの「出来事」に注目

いつ終わるとも知れないコロナ禍が2年目に入った今年の1月と2月、社会保障・福祉に関わる二つの「出来事」が目を引きました。一つは、1月22日に厚生労働省が発表した新(2021)年度からの公的年金支給額の変更。現役世代の賃金水準の低下に合わせて支給額を抑える新ルールが適用され、2017年度以来4年ぶりに0.1%減ることになりました。

もう一つは、国(厚生労働省)による生活保護費引き下げを“違法”とし、減額を取り消した判決。2月22日、大阪地方裁判所は、2013年から3年かけて段階的に実施された生活保護基準の引き下げが、「裁量権の逸脱や乱用があり、生活保護法の規定に反し違法」と判断しました。年金支給額の変更はさておき、この訴訟は今後も後を引きそう。国はこの判決を不服として上級裁判所に控訴する構えですし、原告(受給者)側も、慰謝料の要求が斥けられたことを不服として控訴するようです。また、この判決は大阪府の受給者だけのもので、同様の訴訟が全国29都府県で起こされており、それぞれ審理中でもあります。

さて、前回は高齢者の医療費自己負担増の話題を取り上げ、今回は年金の支給減と生活保護費引き下げの話です。いずれも「自助」が前面に押し出され、「公助」の後退を定着させようとする趨勢に相応しい動きであり、対する抵抗も起こっていますけれども、直接影響を受ける当事者、そしてこの動きに大なり小なり関心を持つ人々は、どのような目で見、何を感じ、どんな評価を下しているのでしょうか。

ジワジワと価値減殺が続く給付額

65,141円。2020年度、国民年金フル支給の場合の1ヵ月分に均した給付金額です。これがこの4月(2021年度)支給分から0.1%減額され、6万5,075円となります。金額は数十円程度、厚生年金の平均的な支給額の場合でも200円程度の減額ですから、この限りにおいては、そう大きな影響はないように見えます。

しかし、2016年の法改正で変わった年金改定ルールが初めて適用された今回のような減額あるいは価値減殺は、2022年度以降もじわじわと続く展開になりそうです。その原因の一つは、年金額改定の基準となる賃金がコロナ禍の影響で低下していること。毎月勤労統計の昨年後半の賃金変動率はマイナス2%程度という試算が出ています。また、今年も今のところ、賃金が上昇するという要素は見当たりません。

もう一つは、給付水準調整の要素である(マクロ経済)スライド調整(抑制)率が、今回は基本ルールによりマイナス改定となったため発動されず、先に送られたこと。さらに、マイナス改定の場合でもスライド調整を発動(支給額を毎年抑制)すべきだという意見も強まっています。今回は小幅ゆえに、減額裁定にあまり気を留めないかもしれない受給者も、来年度以降は嘆息と困窮度が次第に大きくなっていくと考えられます。

年金額改定の基本ルール

  物価変動率がマイナス 物価変動率がプラス
賃金変動率がプラス 新規裁定者:賃金スライド 物価変動率が賃金変動率よりも低い
新規:賃金スライド
既 :物価スライド
既 裁定者:物価スライド 物価変動率が賃金変動率よりも高い
新規:賃金スライド
既 :賃金スライド
賃金変動率がマイナス 賃金変動率が物価変動率より高い
新規:賃金スライド
既 :物価スライド

新規裁定者:スライドなし

賃金変動率が物価変動率より低い
新規:物価スライド
既 :物価スライド
既 裁定者:スライドなし
①賃金も物価も上がって給付額を挙げざるをえない時は、どちらか低いほうを改定の基準とし、
②物価が上がっても賃金が上がらない時は年金額も上げず、
③賃金も物価も下がる時は、どちらか高いほうを基準とする
つまり、「上げ」は上昇率の低いほう、「下げ」は下落率の大きいほうという「二重基準」を採るため、経済が変動すればするほど年金の実質価値の目減りが進むことになる

「恣意的削減」を排した生活保護判決

第二次安倍政権発足のほぼ半年後(2013年夏)から、「世帯の状況や地域差、デフレなどを考慮して」始まったのが生活扶助基準の「見直し(削減)」です。すなわち、2013年8月から3年間で生活扶助給付を最大1割程度引き下げ、期末一時扶助も引き下げるという内容でした。また、2015年度からは当時約44万世帯が対象だった住宅扶助と冬季加算も引き下げられました。さらに2018年10月からは、こちらも3年間かけて、「生活保護を受けていない年収下位10%層世帯とのバランスを取るため」、多くの保護世帯で生活扶助給付を最大5%引き下げました。

戦後最大とされるこれら一連の引き下げは、昨年秋にようやく終わったわけですが、今回の大阪地裁の“違法”判決は、その最初の引き下げに対するもので、引き下げをもたらした「デフレ調整」に、有識者の意見や客観的な統計などを無視して厚生労働省が作った独自指数が使われたことを、恣意的裁量であるとして問題視しました。

実はこの大阪地裁の判決は、全国で展開されている同様の訴訟に対する判決の2例目。1例目は昨年6月に名古屋地裁で出ましたが、この時は厚労省の裁量は問題にされず、「国民感情や国の財政事情を踏まえた」ものと解釈して、受給者側の敗訴としました。

この「国民感情」とは、引き下げが始まる前年(2012年)に起こった「生活保護バッシング」のことでしょう。人気お笑い芸人の母親が生活保護を受け続けていたことが報道されて「不正受給」疑惑が発生、これを自民党議員が大々的に追及したこともあって、生活保護受給者全体が叩かれるという事態に発展しました。折から衆院選挙が迫っており、当時は野党だった自民党は、「生活保護支給額の1割引き下げ」を公約の一つに掲げて勝利し政権を奪還しました。そして、その公約通り引き下げに手を付けたわけです。

当時、「不正受給」が横行しているという話は大きな話題にはなっても、その実態はどの程度のものかとか、そもそも生活保護がどういう制度であるかといった冷静な話はほとんど注目されませんでした。やや以前の数字ですが、2015年度の不正受給金額(厚労省調べ)は約170億円で、保護費総額(3兆7,786億円)の0.45%。それも、申告義務があることを知らなかった受給世帯の高校生がアルバイト収入を申告しなかったといったケースも「不正」にカウントしての話です。

この「国民感情」は、今も根強く残っているようですが、名古屋地裁の判決は、こういう「国民感情」を是としているかのように見受けられます。

付け加えてもう一つ。この引き下げと同時に進められていた政策がありました。「アベノミクス」です。2%のインフレ目標を掲げ、再三にわたって、企業に対し賃上げの実施を要請していました。一方では、物価・サービス価格や賃金がどんどん上がることを目指しながら、他方では多くの人の生活費を削り続けるとは・・・。

だらだら「改革」にコロナ禍が追い討ち

「改革」という言葉、それも政府や政党、有力な団体からのものを頻繁に目にするようになったのはいつ頃からでしょうか。そして、これが声高に叫ばれたあと、税金や社会保障の分野では、制度改変の波が何度も押し寄せました。中には、介護保険の新規導入(2000年)といった、時代のニーズに適ったものもありましたけれども、その多くは多くの人の負担を増やし、給付(公助)が削られる結果をもたらしました。

直近では、「現役世代の(保険料)負担上昇を抑えることは待ったなしの課題である」(令和2年12月16日閣議決定:全世代型者化保障改革の方針 2ページ)として決定された高齢者医療費自己負担引き上げ(1割→2割)がありましたが、これで浮く医療費給付年約2190億円のうち、現役世代の負担減に回るのは一人当たり年800円(労使折半の事業主負担分を含む)ほどでしかなく、半分以上が公費(助)の削減に充てられます。なぜ、大半を現役の負担減に回さないのでしょう。

いずれにせよ、消費税導入(1989年)の前から延々と続いている「改革」の波の襲来には、依然終わりが見えません。そして、コロナ禍に伴って発生した公的財政の大きな赤字と、昨年秋からにわかに注目を集めている「自助」という言葉が、近い将来の新たな大波の到来を予感させます。

「備え」が必要です。幸い、私たちは上から促されたものではない「自助」の方法を一つ知っています。現状をきちんと把握し、先行きの変化・変動を予測して、打つべき策を見いだし手を打っていく・・・ライフプランニングの更新と実行の重要度が増しています。

野田 眞(のだ・まこと)
(1948年 鳥取市生まれ。東京都在住)
生活経済ジャーナリスト。講演・学習会講師、メール情報誌・ネットサイト等へ寄稿などで活動中。

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