FPによる知って得する!くらしとお金の話

第2回

妻の財産を守る!相続が発生した場合の妻の権利

コープ共済について

2021年4月

第2回目は、夫が死亡したことで妻が受け取れる財産について、お伝えします。

相続の基本的な考え方

婚姻している夫婦の夫が亡くなった場合、妻は必ず相続人となります。一緒に相続人となる人(法定相続人)と、相続割合(法定相続分)および遺留分は民法で次のように定められています。なお事実婚の配偶者には相続権はありません。
※事実婚とは・・・一般に法律上の婚姻手続きを行わないものの、夫婦として生活をする状態をいいます。

図表1:法定相続人と法定相続分(遺留分) ~妻がいる場合~

  法定相続人 法定相続分(遺留分)
その他の相続人
第1順位 妻と子(孫など直系卑属含む) 1/2(1/4) 1/2(1/4)
第2順位 妻と親(祖父母など直系尊属含む) 2/3(1/3) 1/3(1/6)
第3順位 妻と兄弟姉妹(甥姪含む) 3/4(3/8) 1/4(なし)
  1. 同じ立場の相続人が複数いる場合には、原則として人数で按分する
  2. 片方の親のみ同じ兄弟姉妹(半血兄弟姉妹)の相続分は、両親が同じ兄弟姉妹の相続分の半分となる。

実際の遺産分割では、法定相続分に関わらず、相続人同士の話し合い(遺産分割協議)により自由に遺産の配分を決めることができます。ただし、相続人同士で配分が決められず、家庭裁判所で調停や裁判となった場合には、法定相続分を基準に判断されることになります。

また、被相続人の遺言があれば、原則として遺言の内容が優先されます。たとえば「妻にすべてを相続させる」という遺言があれば、妻がすべての財産を引き継ぐことができます。

ただし遺言があっても配偶者と第1順位、第2順位の相続人には、最低限の権利が認められています。それを「遺留分」といいます。遺留分の権利がある人は、「相続があったことを知ったときから1年以内、あるいは相続開始から10年以内」であれば、遺留分に相当する金額を請求することができます。これを「遺留分侵害額請求」といいます。仮に6,000万円の相続財産があり、法定相続人が妻と子1人(計2人)のケースでは、遺言により妻がすべて相続することになったときには、子は1,500万円を遺留分(6,000万円×1/4)として妻に請求することができるということです。

具体的な事例

それでは、具体的な事例で考えてみましょう(図表2参照)。

夫名義の財産・借金は、預金1,500万円(結婚前500万円、相続500万円、結婚後500万円)、結婚後に購入した自宅2,000万円(住宅ローンの残債1,000万円)、ギャンブルによる借金1,000万円です。

図表2:夫が亡くなったとき、妻が引き継げる財産

このときの基本的な考え方は、次のとおりです。

  1. 1亡くなったときに所有していた財産(債務を含む)は法定相続人が引き継ぐ
  2. 2相続時は原則として名義で判断
  3. 3住宅ローンは、団体信用生命保険に加入していれば保険金で相殺される
  4. 4死亡保険金や死亡退職金がある場合には、指定されている受取人固有の財産となる

このケースでは、住宅ローンが団体信用生命保険で相殺されるため、遺産分割の対象となるのは、自宅2,000万円(ローンなし)と預金1,500万円、住宅ローン以外の借金1,000万円(ギャンブルで作った借金)、つまりプラスの財産3,500万円とマイナスの財産1,000万円です。相続では離婚時の財産分与と違って、借金の理由がギャンブルによるものであっても、妻とその他の相続人が引き継ぐことになります。

相続人が妻と子の場合、妻の法定相続分は「プラスの財産1,750万円、マイナスの財産(借金)500万円」となります。子や孫以外が相続人となる場合の妻の法定相続分は、図表2にあるように「夫の親が相続人/プラス2,333万円、マイナス▲667万円」、「夫の兄弟姉妹が相続人/プラス2,625万円、マイナス▲750万円」となります。

死亡保険金や死亡退職金は遺産分割の対象外

基本的な考え方④で書いた通り、死亡保険金受取人を指定している「死亡保険金」や、退職金規程などで受取人の順位が決められている「死亡退職金」は、それぞれ指定されている人固有の財産になるため、遺産分割の対象外です。これらはみなし相続財産として、相続税の対象にはなります。民法(遺産分割)と相続税法(相続税がかかるかどうか)では、対象範囲が異なるので注意が必要です。

たとえば、図表3の場合、夫の財産が左側のようなものだったら、遺産分割の対象となるのは、5,000万円ですが、右側の場合、赤丸で囲んだ財産のみが遺産分割の対象となります。つまり、同じ5,000万円でも死亡保険金や死亡退職金が含まれるなら、妻は多くの財産を引き継げる可能性があると言えるのです。

図表3:相続財産とみなし相続財産

こういったことを踏まえて、次回は妻の財産を守るためには、どういうことができるのか、ということをお伝えいたします。

山田 静江(やまだ・しずえ)
ファイナンシャル・プランナー(CFP®)、終活アドバイザー。銀行勤務などを経て1997年にFPに。子育て世代からリタイア世代まで、幅広い世代のライフプランニングが得意。またNPO法人ら・し・さの理事として、2004年からエンディングノートの普及活動を行っている。著書・監修に「よくみえる!医療介護のはなし」(セールス手帖社)、「定年前に知らないと困るお金のきほん」(オレンジページ)、「最強マネープランノート」(主婦の友社)、「よくわかる相続2020年版」「老後の備え」(日経ムック)など多数。

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