2022年4月
これは、成年後見制度を利用した際にかかる費用に特化した連載です。
初回は、任意後見制度に関する費用でしたが、2回目は、法定後見制度に関する費用について説明します。
任意後見制度は、将来の後見人を自分が元気なうちに自分で決めておく制度でした。今回説明する法定後見制度は既に本人の判断能力が十分ではない方が利用する制度です。法定後見制度の根拠法は民法にあります。最高裁判所事務総局家庭局が発表している成年後見関係事件の概況によると令和3年1月から12月までの1年間で36,904人が新たに法定後見制度の利用を始めたということです。
法定後見制度にかかる費用
既に判断能力が十分ではない人のために、本人を支援する後見人、保佐人又は補助人(以下後見人等)を家庭裁判所(以下家裁)に決めてもらうのが、法定後見制度です。
その流れは以下の通りです。
- ステップ1
- 主治医等の医師に成年後見申し立て用の診断書作成してもらう。
- ステップ2
- 診断書を基に後見等開始申立書を作成し、必要な書類を揃える。
- ステップ3
- 家裁に申立書を持ち込む。
- ステップ4
- 家裁が後見人等を選任したら、後見人等が仕事をする。
- ステップ5
- 後見人等が不要になったら法定後見を終了させる。
それでは以下、ステップごとにかかる費用を説明しましょう。
ステップ1『主治医等の医師に成年後見申立て用の診断書作成してもらう』
法定後見制度を利用するためには、精神上の障がいによって、判断能力が十分ではないことが条件です。診断書は本人の判断能力の程度を家裁に証明し、法定後見制度を利用できるかどうか判断してもらうためのものです。
診断書は、任意後見制度で使用するものと同じ、成年後見専用書式です。提出する家裁のHPなどからダウンロードするか、家裁の担当窓口で受け取ります。診断書代は5,000円前後が一般的ですが、病院や医師により、3,000円から1万円くらいの幅があります。もちろん診察料もかかります。
ステップ2『診断書を基に後見等開始申立書を作成し、必要な書類を揃える』
法定後見制度には本人の判断能力の状況によって後見、保佐、補助3つの種類があります。ステップ1で書いてもらった診断書には、その判断能力に関して医師が4段階で意見を記入する箇所がありますので、この医師の意見を基に「本人に後見人等をつけてください」という書類(開始申立書)を作成します。
その他に、「どうして法定後見制度を利用する必要があるのか」、「親族が法定後見制度利用についてどのように考えているか」などの書類、本人の財産や収支計画書などを作る必要があります。(保佐、補助の場合は他に必要な書類もあります。)
さらに、本人の戸籍謄本(全部事項証明書)750円、本人の住民票300円(市町村によって違う)、本人の成年被後見人等の登記がされていないことの証明書300円、家裁によっては、手続きをする人の戸籍謄本(全部事項証明書)750円も必要です。法定後見制度では成年後見人等になってくれる家族など(成年後見人等候補者)を記入することができます。その場合は、候補者の住民票300円(市町村によって違う)が必要です。その他本人の健康、財産また収支に関する資料を揃えます。
開始申立書等書類と開始申立て添付書類をすべて申立人が作成準備する場合は、戸籍謄本などの手数料だけで済みますが、弁護士や司法書士に依頼した場合の報酬はサポート内容に応じて10万円から30万円くらいになるようです。
ステップ3『家裁に申立書を持ち込む』
開始申立書等書類と開始申立て添付書類を管轄の家裁に持ち込みます。申し立てをするときに必要なものは、申立費用としての収入印紙(800円~2,400円)、登記費用の収入印紙2,600円、家裁との連絡用に予め預けておく切手が、3,805円~5,905円(後見等の種類及び家裁によって違う)
また、家裁から鑑定が必要と言われた場合は5万円~10万円(病院や医師によって違う)の鑑定料も必要です。
ステップ4『家裁が後見人等を選任したら、後見人等が仕事をする』
家裁で選ばれた後見人等がその仕事を始めます。このステップでかかるお金は後見人等に支払う報酬です。後見人等は、最低でも1年に1回家裁にその仕事ぶりを報告し、併せて報酬が欲しいときには報酬を下さいという申し立てをします。報酬を下さいという申し立てを受け取った家裁が、報告書と本人の財産に照らして報酬額を決定します。この報酬は家裁の裁量で決められるので「いくら」という事ができないのですが、複数の家裁から専門職(弁護士、司法書士、社会福祉士等)が成年後見人等になった場合の「成年後見制度の報酬の目安」が出ていますので、ご紹介しましょう。
まず、基本報酬として月額2万円、本人の預貯金及び有価証券等の流動資産の合計額が1,000万円を超え5,000万円以下の場合に月額3万円~4万円、5,000万円を超える場合には月額5万円~6万円です。さらに付加報酬として、成年後見人等の特別な仕事によって本人の財産が相当額増えた場合には40万円~150万円の報酬となっています。
この目安によると専門職が後見人等になった場合は、基本報酬だけで年間24万円~72万円となります。そこにボーナスとしての不可報酬が加わると最高で222万円程度にもなるのです。
ステップ5『後見人等が不要になったら法定後見を終了させる』
法定後見を終了させる理由は、死亡した場合と法定後見制度を利用したときよりも判断能力が回復して後見人等がいらなくなった場合です。
死亡した場合は任意後見制度と同じですが、判断能力が回復した場合は、後見等開始の審判の取消申立てが必要です。申立費用は収入印紙800円、その他家裁との連絡用の郵便切手3,000円弱(家裁によって違う)、本人と申立人の戸籍謄本750円と住民票300円(市区町村によって違う)です。
【まとめ】法定後見後見制度にかかる費用の一例
後見類型の場合
*下記の金額はあくまでも目安です。実際の費用はケースにより異なります。
ステップ1 | 5,000円(医師の診断書) |
---|---|
ステップ2 | 2,400円(法定後見候補者がいる場合で自分で行う) 10万円~50万円程度(司法書士等に依頼する) |
ステップ3 | 4,605円+鑑定料(必要に応じて) |
ステップ4 | 後見人への報酬 年間24万円~72万円+付加報酬(専門職がついた場合) 後見監督人への報酬 年間12万円~36万円(後見監督人がついた場合) |
ステップ5 | 0円~5,900円程度 |
ステップ1からステップ3までの初期費用は、開始申立書類等を専門家に任せなければ、そんなに大きい金額ではありませんし、一回で済む費用です。
ただし、ステップ4の費用は法定後見が終了するまで毎年かかる費用となり、実際にはいくらかかるか分かりません。成年後見人等が専門職だった場合、基本報酬は5年間で24万円~72万円が5年間続いたとすると120万円~360万円になります。
法定後見人等は家裁が決めます。先ほどの法定後見の報酬の目安で示したように、専門職が後見人等になった場合には、本人の流動性資産が多くなればなるほど報酬額が増えます。専門職後見人が本人の定期預金を理由もなく解約しようとした事例があります。
また、本人のために遺産相続関係の訴訟で、利益が約970万円あった年の、報酬が約800万円だった事例もありました。もちろんこの報酬は本人の資産から払われます。
今回は法定後見制度にかかる費用についてご説明しました。次回は法定後見制度の費用を抑える方法についてご紹介します。
※記載の費用などは2022年3月時点のものです。
- 佐藤 龍子(さとう・りゅうこ)
- FPオフィスR(アール)代表
1981年みやぎ生協に入協。みやぎ生協LPA事務局として勤務。2009年からFPオフィスRの代表として独立、2013年にNPO法人PREMOの理事長に就任。現在は、成年後見制度に関する相談を中心に、個人のFP相談業務を行っている。
保有資格:CFP® 1級FP技能士 行政書士 後見人相談士®