FPによる知って得する!くらしとお金の話

第1回

がんライフとお金の処方箋①

コープ共済について

こんにちは、がんライフアドバイザー®(※)の川崎由華です。

私は病院内で、がん患者さんやその家族の方のお金や仕事の気掛かりや困りごとの相談を受ける相談員を務めています。これまでに約500件の相談を受けてきました。

「がんと診断された!これから治療費はいくらかかるの?」
「お金には困るけど、治療に専念するために仕事は辞めた方がいい?」
「治療が長引いて貯蓄も減ってきてしまった、どうしよう?」
「自分に万一があった時に家族はお金に困らないだろうか?」

など、相談内容は皆それぞれ。家族や就労、家計状況だけでなく、病歴や治療法、副作用の状況といった医療情報も踏まえながら、一人一人に応じたアドバイスをし、お金の処方箋を出しています。しかし、がんになってから提案できる手立てには限りがあり、がんになる前からもう少し備えがあれば…とか、もう少し早い段階で相談に来てくれたら…と悔しく思うこともあるのが、正直なところです。

3回にわたり、がんになってからの暮らし「がんライフ」についてお伝えします。お金だけでなく、仕事や人間関係など、「がんライフ」への備えの参考になれば幸いです。

支えるか、支えてもらうか、誰もが経験するであろう「がんライフ」

「日本人の2人に1人が、生涯のうちにがんになる」というフレーズは、テレビCMやネット広告で耳にしたことがあると思います。これは、国立がん研究センターが集計している全国がん登録データから割り出された数字に基づいて言われている、今のわが国の現状です(図表1)。

2人に1人ということは、確率的に言えば、自分ががんにならなければ自分の隣の人ががんになるということです。つまり夫婦であれば、夫か妻のどちらかががんになる…家族の誰かががんになれば、その家族を支える立場として「がんライフ」を送ることになるわけです。職場の誰かががんになれば、その仲間の「がんライフ」を支える大きな一員となるということです。

だから、自分はがんにはならないと思っている方でも、がんは決して他人事ではないという意識を持っておくのが良いでしょう。

図表1 がんに罹患する確率~累積がん罹患リスク~

図表1 がんに罹患する確率~累積がん罹患リスク~
参考資料 国立がん研究センター 累積罹患リスク(2018年データに基づく)

がんになってもアイデンティティは失わないで

これだけがんは身近な病気になっていますが、医師からがんだと告げられ、ショックを受けない方はいないでしょうし、これからの日々を後ろ向きにばかり考えてしまうでしょう。それは自然な心の反応だと思います。

しかし今は、がんとの共生が謳われ、がん患者が、患者ではなく生活者としてライフスタイルを維持しながら生きることができるよう、社会づくりが行われています。医療現場では、その方の価値観や人生観によって、ふさわしい治療を選択できるように提案します。

一人で飲食店を切り盛りしている男性が、がん治療をするにあたり、医師が最初に提案した入院での治療を拒み、通院での治療を選択したことがありました。医師は生命予後を考えて、最良の治療を提案したのですが、その男性にとっては入院をしたら飲食店を休業することになり、収入はゼロ、常連客が離れていく。それは命があっても、心が生きているとは言えない状況。だから入院をせず通院でできる治療をしたい、というのが男性の希望だったのです。男性の想いを知り、医師は通院での治療を提案、飲食店を続けながらの治療が始まったのです。

がんになったから何もかも諦めなければいけない、アイデンティティや生きがいを失うことになる、ということではありません。子育て中の方なら子どもとの時間、楽器演奏が楽しみな方なら指づかいや息づかいに支障が出にくいようになど、自分の大切なものを守れる「がんライフ」を考えていきましょう。

がんになった方が抱える苦痛の1つ「社会的苦痛」

がんと診断され、治療を進めていく中で、精神的な苦痛だけでなく、様々な苦痛を抱えていくことがあります。ホスピスの創始者であるイギリスの医師シシリー・ソンダースは、がん患者が体験する複雑な苦痛について、全人的苦痛(トータルペイン)という概念を提唱しました。全人的苦痛には身体的苦痛、精神的苦痛、社会的苦痛、そしてスピリチュアル(霊的)な苦痛の4つの側面があります(図表2)。

図表2 がんになった時の4つの苦痛

図表2 がんになった時の4つの苦痛

もし、社会的苦痛の1つであるお金の不安を抱えているならば、そこからどのような不安が生じてくる可能性があると思いますか?例えば、治療に対して消極的になってしまったり、痛みを我慢してしまう身体的苦痛。治療費がかかってしまうことで家族に対して後ろめたさを感じる精神的苦痛。生きること自体に恐怖を感じるスピリチュアルな苦痛。

1つの側面が、他の3つの側面の様々な苦痛を引き起こしてしまうことが考えられます。逆に考えたら、1つの苦痛が和らげば、他の苦痛も和らげることができるということです。

少しでも苦痛が和らげられるためにできることとして、まず、自分や家族ががん治療を受ける時に必要となるお金の目安くらいは知っておくと良いのではないでしょうか。

がん治療費はいくらかかるの?

時折、がんの治療費の平均額は約〇万円、と書かれたチラシやネット情報を見かけることがありませんか?何かしらのデータから平均額を出したものだと思われますが、平均額は参考になりません。

なぜなら、がんの種類や進行度によって治療方法も治療期間も違うし、薬剤によっては体の大きさで使用する薬剤の量も違うし、起こる副作用の度合いによって薬も違います。それにもし、全く同じ治療をして同じ薬を使ったとしても、支払う医療費の額は皆一緒ではないのが、日本の公的医療保険の制度です。

だから平均額を参考にするのではなく、自分や家族ならいくらかかるのかを知っておかねばなりません。

次回、自分や家族の医療費の目安の試算についてお伝えします。

  • (※)がんライフアドバイザー®・・・がん患者さんやご家族が抱える問題と向き合い、医療知識をもって、「生命」「人間関係」「仕事」、そして「お金」に対する想いをトータルにカウンセリングして自分らしい生き方を提案する、がん患者さんとご家族のパートナー
川崎 由華(かわさき・ゆか)
一般社団法人がんライフアドバイザー協会 代表理事
大阪医科薬科大学大学院 医学研究科 在籍
社会福祉士、CFP®、1級FP技能士、住宅ローンアドバイザー、両立支援コーディネーター
医師の家系で生まれ育ち、がん治療関連薬を扱う製薬企業での勤務、両親のがんの罹患を経験。がん診療連携拠点病院で相談員を務める中、がん患者とその家族のお金や仕事の相談を受ける医療・介護者づくりの法人を設立。相談実績を医療関連学会での発表を重ねる他、お金や仕事の問題といった社会的苦痛の緩和も治療の一貫として考えていく重要性を、講演や雑誌、ラジオなどメディアを通じて全国の医療従事者や市民に向けて伝えている。

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