FPによる知って得する!くらしとお金の話

第2回

知っておきたい差額ベッド料のホント

コープ共済について

2022年10月

個室以外でも差額ベッド料がかかるケースあり

入院すると医療費以外にも何かと物入りです。医療費であれば上限額を超えた金額は高額療養費として還付されますが、それ以外の出費は全額自己負担です(図1)。中でも負担が重いのが差額ベッド料。差額ベッド料がかかる病室を特別療養環境室といい、よりよい環境で療養するために、患者が自ら希望して利用するものです。特別料金を負担するからには、それにふさわしい療養環境でなくてはならず、充足すべき要件を定めています(図2)。

図1:高額療養費の対象とならないもの(例)

図1:高額療養費の対象とならないもの(例)

図2:差額ベッド料を徴収できる「特別療養環境」の要件

図2:差額ベッド料を徴収できる「特別療養環境」の要件
出典:厚生労働省通知(令和4年3月4日保医発0304第5号)『「「療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等」及び「保険外併用療養費に係る厚生労働大臣が定める医薬品等」の実施上の留意事項について」の一部改正について』より

「個室じゃないのに差額ベッド料を請求された」との苦情がありますが、広さや設備等の要件を満たしていれば、一つの病室に4床までは差額ベッド料を取ってよいことになっています。

日本の総病床数は約130万床で、そのうち差額ベッド料のかかる病床は26万6755床です。1日あたりの平均徴収額は6,354円ですが、最も多い価格帯が5,401円~8,640円の病床で、約21万床が8,640円以下となっています(図3)。

出典:厚生労働省中央社会保険医療協議会総会(第466回令和2年9月16日)資料『総-7-2:主な選定療養に係る報告状況』より

https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000672469.pdf#page=3

繰り返しになりますが、特別療養環境室は患者が自ら希望して利用するものです。ところが、「希望していないのに請求された」という声が後を絶ちません。厚生労働省では差額ベッド料を求めてはならない場合を定めています(以下「通知」:図4)が、この解釈をめぐっても誤解が多くあります。よくあるトラブルをみていきましょう。

図4:患者に差額ベッド料を求めてはならない場合

図4:患者に差額ベッド料を求めてはならない場合
出典:厚生労働省通知(令和4年3月4日保医発0304第5号)『「「療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等」及び「保険外併用療養費に係る厚生労働大臣が定める医薬品等」の実施上の留意事項について」の一部改正について』より

「同意書を書いた覚えがない」

差額ベッド料がかかるとは認識しておらず、「請求されてびっくり」というケースです。入院の手続きにはたくさんの書類に署名を求められます。その中に同意書が紛れていたとか、たまたま付き添っていた人が署名をしていたということもあります。

通知では「特別の療養環境の提供は、患者への十分な情報提供を行い、患者の自由な選択と同意に基づいて行われる必要があり、患者の意に反して特別療養環境室に入院させられることのないようにしなければならないこと」とあります。実際には「説明を聞いた覚えがない」という人が多いのですが、署名入りの同意書が残っていれば、覆すのは難しいのが現実です。

同意書の控えを出さない病院があるので、念のため同意書の現物を見せてもらってください。日付や病室番号、1日あたりの金額などの契約内容がきちんと入っているかを確認します。途中で部屋を変わった場合には、改めて同意書を提出する必要があります。記載内容が不十分な場合は同意の確認が行われていないとみなされることもあります。

ときどき、「払ったお金はあとで戻ってくるだろうと思って同意書に署名した」という人もいます。前述のとおり、差額ベッド料は高額療養費の対象外で全額自己負担です。同意書は患者側と病院との契約書ですから、署名した以上、支払義務が発生します。

「治療上の必要と言われたのに請求された」

通知では治療上の必要の例として、「救急患者、術後患者等であって、病状が重篤なため安静を必要とする者、又は常時監視を要し、適時適切な看護及び介助を必要とする者」「免疫力が低下し、感染症に罹患するおそれのある患者」「集中治療の実施、著しい身体的・精神的苦痛を緩和する必要のある終末期の患者」などを挙げています。「治療上の必要」であれば、同意書をとること自体が不適切ですが、たとえ同意書があっても差額ベッド料を徴収することはできません。

ただし、病状は変化します。「いつまで」あるいは「いつから」が「治療上の必要」なのかを主治医に確かめる必要があります。たとえば、重篤な状態を脱して大部屋に移れる状態になったにもかかわらず、「個室がいい」と患者が希望し同意書に署名すれば、同意書に記載してある日付から差額ベッド料が発生します。

入院時に同意書を提出している場合、担当医から「治療上の必要」と聞かされていたにもかかわらず、差額ベッド料を請求されることがあります。そのような場合は、患者側の希望ではなく担当医の指示で個室に入ったという経緯を明確にする意味で、担当医に個室に入った理由を尋ねてください。もし「治療上の必要」であれば、いつまでが「治療上の必要」なのかを確認しましょう。本来であれば、「治療上の必要」がなくなった時点で、別の病室に移るかどうかの意思確認を患者に対して行うべきですが、この境目が曖昧にされるケースがあるようです。

「救急車で運ばれたのに」「術後なのに」「終末期なのに」差額ベッド料を請求されたという苦情があります。しかし、これらは必ずしも治療上の必要に該当するわけではありません。「その病室でないと治療が行えない」と医師が判断するかどうかがポイントです。救急車で運ばれても術後であっても、大部屋で治療できるケースは多いものです。終末期であっても、患者側が「家族だけで過ごしたいから個室がいい」と希望すれば差額ベッド料の支払いは発生します。ちなみに集中治療室は差額ベッド料の負担は発生しません

「病棟管理の必要性等」は同意書次第

通知には事例として「MRSA等に感染している患者であって、主治医等が他の入院患者の院内感染を防止するため、実質的に患者の選択によらず(特別療養環境室に)入院させたと認められるもの」があげられています。「実質的に患者の選択によらず」に該当するかどうかはケースバイケースで、同意書に署名していれば患者が選択したとみなされる可能性が高いです。

同様に、「大部屋に空きがない」とか、「いびきがうるさくて他の患者の療養に差し障りがある」といったケースも、同意書の有無がカギとなります。患者自身の免疫力が低下し、感染症に罹患するおそれがあれば治療上の必要に該当しますが、患者本人がMRSA等に感染している場合は治療上の必要にはなりません。

急な入院などで混乱し、「同意書を出さないと入院させてもらえない」と思って署名をするケースが目立ちますが、「今は内容の確認ができないので保留にします」と言い、あとで「十分な情報提供」を受けたうえで「自由な選択」を行うようにしましょう。

内藤 眞弓(ないとう・まゆみ)
ファイナンシャルプランナー・CFP®認定者
大手生命保険会社勤務の後、FPとして独立。現在は金融機関に属さない独立系FP会社「生活設計塾クルー」のメンバーとして、生活設計や資金運用、保障設計などの相談業務、各種団体のセミナーや講演を行う。週刊金曜日『くらしの泉』(月1回)、日経マネー『生保損保業界ウォッチ』(隔月)連載中。オンライン通信制講座ビジネスブレークスルー「資産形成力養成講座」「エントリーコース」担当。『くらしの豆知識2022年版』の「第5章生活設計と保険」の執筆担当。野村金融アカデミー「保険選び」担当。
著書は『共働き夫婦 最強の教科書』(東洋経済新報社)、『やりくりポーチでラクラクお金を貯める本』(主婦の友社)、『医療保険はすぐやめなさい』(ダイヤモンド社)、『お金のプロがすすめるお金上手な生き方』(コモンズ社)、『医療保険は入ってはいけない![新版]』(ダイヤモンド社)等

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