2023年1月
18歳成人への不安:何が問題なのか?
令和4年4月、明治9年の太政官布告で成年年齢が20歳に定められて以来、約140年ぶりに成年年齢が18歳に引き下げられました。成年年齢を定める民法改正に先だち、憲法改正のための国民投票法が18歳選挙権を定め、さらに公職選挙法も18歳選挙権に改正される等、高校3年生で18歳の誕生日を迎えた人から、選挙という社会参画の機会が与えられるようになりました。
しかし、成年年齢を18歳とすることには、国民感情として大きな反対意識があったのも事実です。なぜなら、民法には、未成年者が親権者の同意なく行ったお小遣いの範囲を超える契約について取り消しができる「未成年者取消権」が定められていますが、これが18歳で成年年齢を迎えることで利用できなくなり、自分で行った契約に責任がもてる年齢とみなされるようになるのです。
民法改正前の平成25年の世論調査では、一人で契約ができる年齢を18歳成人とすることに対して「どちらかといえば反対」、「反対」が約8割であり、この回答者にどのような条件整備が必要か質問した結果は「どのような条件が整備されたとしても、成年年齢を引き下げることに反対である」が最も多く43.8%を占めました。反対意見の多さからも、問題に対する不安の大きさを示していると言えるでしょう。
不安の正体は消費者トラブル
では、どのような消費者トラブルが想定されるのでしょうか。例えば、これまで20歳代に多く報告をされていた、マルチ商法等のトラブルです。マルチ商法は自身が会員となって商品を購入し、さらに友達を誘って会員になるとバックマージンが入る仕組みですが、最近では特に、「モノなしマルチ」と言われる商品の購入を伴わない、暗号資産等の投資による儲け話が20代を中心に広がっており、このようなトラブルが成人になったばかりの18歳、19歳にも広がる可能性があります。
18歳になると、クレジットカードやローン、消費者金融からの借り入れもできるので、仕組みが良く分からないまま友達からの誘いにのってしまい、高額な借金を抱える可能性があります。また、実態がよく分からない投資詐欺では、友達を勧誘することで犯罪加害者となることから、明るい人生のスタートラインで大きな挫折を経験することになります。
上記のケースは想定される消費者トラブルの一例ですが、被害に遭わないようにするために、普段から家庭で話題にしていただくと共に、もし「おかしい」と思うことがあれば、消費生活センター(消費者ホットライン188)に相談できる力を備えていることも大切なことです。
18歳成人への期待:社会参加
18歳成人への国民の不安感情が大きいことから、不安を中心に述べられることが多いのですが、ここでは成人となった子どもたちが、未来の主人公として生きていくことを応援する立場から考えてみたいと思います。
下の図を見てください。これは、日本財団が実施した、日本・アメリカ・イギリス・中国・韓国・インド6カ国の17歳~19歳の若者を対象にした「国や社会に対する意識」の調査結果です。日本の若者の自己評価や社会参画に対する意識が諸外国と比較して、いずれも低い結果であることが分かります。特に、「自分の行動で、国や社会を変えられると思う」は中でも極めて低く、これからの社会を創造する若者の力が活かせていない点は、日本社会全体の問題として非常に深刻です。
選挙の投票機会は限られていますが、普段の消費行動を「投票」ととらえ、自身の選択によって社会や環境等に与える影響を考える、すなわち小さなステップで社会参画を考えてみてはどうでしょうか。最近では、このことを「エシカル消費」と呼び、人や社会、地域、環境に配慮した消費行動として広がっています。親世代よりも、むしろZ世代(1990年代中盤から2000年代生まれ)の若者たちの方が高い感度であったり、意欲的に活動していたりする例もあります。家族で地元の地産地消のマーケットに行ってみたり、旅行等で環境配慮行動を意識したり、楽しみながらできることを探してみましょう。
18歳成人を迎える子どもに対する家庭の役割
高校3年生で成人の仲間入りする子どもに対して、家庭では自立した消費者として独り立ちできるように、発達段階にあわせて適切な支援が必要です。学校教育でも消費者教育は重要事項として位置付けられ、家庭科や社会科等で行われていますが、実践的な取り組みができるのは唯一家庭といっても過言ではありません。保護者は消費者教育の担い手としての自覚をもち、だまされない消費者、自分で考えて行動できる消費者となるよう働きかけることが、公正で持続可能な社会の実現に向けて一層重要な役割になっています。
- 柿野 成美(かきの・しげみ)
- 法政大学大学院政策創造研究科 准教授 公益財団法人消費者教育支援センター 理事 首席主任研究員
愛知県出身。平成9年お茶の水女子大学大学院を修了後、平成10年より消費者教育支援センターに勤務。平成25年4月より現職。平成30年3月に法政大学で博士(政策学)の学位を取得。令和4年4月より法政大学大学院政策創造研究科准教授に着任。著書に「消費者教育の未来―分断を乗り越える実践コミュニティの可能性―」(法政大学出版局)がある。また、平成28年に告示された小学校学習指導要領(家庭科)の改定にかかわり、現在は、子ども達の消費者としての自立を目指して、全国各地で行われる消費者教育の実践を支援する活動を行っている。