2023年4月
高等学校で金融教育がスタート!?
2022年4月、成年年齢の引き下げ開始と同時に、高等学校の学習指導要領がスタートしました。そこでよく目にしたのは、「高等学校家庭科で金融教育が必修化」という見出しでした。
必修化というのは、学校での学習内容を定める学習指導要領及びその解説に内容が記載されたことを意味します。2005年には金融教育元年といわれ、実はこれまでも高等学校家庭科では金融教育の内容は記述されてきたはずなのですが、何が注目されたかと言えばズバリ「資産形成」でしょう。学習指導要領解説には、次のような記述があります(太字は筆者)。
出典:高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 家庭編
近年、高等学校家庭科は「家庭基礎」(2単位:週に2コマの授業を1年間行うイメージ)が主流で、高校3年生で18歳成人になる前段階の高等学校1年及び2年で学習をすることになっています。家族・家庭生活、衣食住の学習に加えて「C持続可能な消費生活・環境」が位置づいており、この内容を中心としていわゆる金融教育、消費者教育が行われています。
教科書の記述はどうなっているのか?
では、この金融教育の内容は教科書でどのように表現されているのでしょうか。日本の教科書は学習指導要領・同解説に基づいて教科書会社が作成し、その後、教科書検定に合格した教科書を高等学校ごとに採用します。そのため、内容の基本的枠組みはおおよそ統一しているものの、教科書会社によって取り扱い量が異なっているのが特徴です。
私が執筆分担している教科書は、18歳成人に真正面から切り込む内容構成になっており、第1章に消費生活の内容が位置づいています(他の教科書はA,B,Cの順で教科書の最後に記載されています)。
先ほどの学習指導要領解説の下線の該当部分は、以下のようになります。(この一つ前では「生活費と家計」について扱い、家計収支の分類や、給与明細から可処分所得等について理解する単元があります。)
最初の見開きページでは、将来の経済計画を立てるために、まずは「働き方とお金」について考えるところからスタートします。高校生は将来の職業選択を考える時期であり、生活の原資をどのように得るのかが直近の重要な課題です。次に、働いて得た収入から、その先の夢や目標を達成するために、「ファイナンシャルプランニング」によってお金の準備が必要であり、ライフイベントによって必要となるお金についても触れられています。
※繰り返しになりますが、すべての教科書が同様の記載ではない点にご留意ください。
次の見開きページでは、「金融商品の活用」として、左側1ページには資産形成のための金融商品の特徴等の説明、右側には借入についての説明があります。金融商品の安全性、流動性、収益性について取り上げられていますが、この内容は改正前まで使われていた前教科書にも掲載されていた内容です。今回紹介した教科書は全体で216ページ、必修化になったと言っても、高等学校家庭科の中で扱うことができる時間は非常に限られていると言うことができるでしょう。
子どもの教科書を見てみよう!
学校では扱う時間が限られているとしても、教科書に掲載されているということは、それを題材として親子の共通の話題にしやすくなったと言えます。高校生であれば、親の年収はどのくらいなのか、家計の金融資産がどのくらいあるのか、生まれてから今までどのくらいのお金がかかっているのか、教科書をきっかけに家族で話し合うことができると思います。
お金に関する内容は、小学校家庭科、中学校技術・家庭科(家庭分野)でも、教科書に具体的に登場します。ぜひお子さんの教科書を親子のテキストとして、お金について話し合ってみましょう。
- 柿野 成美(かきの・しげみ)
- 法政大学大学院政策創造研究科 准教授 公益財団法人消費者教育支援センター 理事 首席主任研究員
愛知県出身。平成9年お茶の水女子大学大学院を修了後、平成10年より消費者教育支援センターに勤務。平成25年4月より現職。平成30年3月に法政大学で博士(政策学)の学位を取得。令和4年4月より法政大学大学院政策創造研究科准教授に着任。著書に「消費者教育の未来―分断を乗り越える実践コミュニティの可能性―」(法政大学出版局)がある。また、平成28年に告示された小学校学習指導要領(家庭科)の改定にかかわり、現在は、子ども達の消費者としての自立を目指して、全国各地で行われる消費者教育の実践を支援する活動を行っている。