2023年4月
子どもの自律・自立とは?
親であれば、子どもが成人して自律・自立した生活を送ることを望むでしょう。そのために、幼少期から家庭の中でルールを作って守ったり、一緒に出かけて新しい世界の体験をしたり、子どもの幸せを願って様々な働きかけをしていると思います。では、VUCA(注)と言われる変化が激しい社会の中で、子どもが社会の主人公として自律・自立して生きていくために、家庭生活の中でどのようなことができるのでしょうか。ここではまず、言葉の意味から考えましょう。
- 注)V(Volatility 変動性)、U(Uncertainty 不確実性)、C(Complexity 複雑性)、A(Ambiguity 曖昧性)の頭文字をとった用語で、先行きが不透明で将来が予測困難な状態を指す。
自律:
自分の行為を主体的に規制すること。外部からの支配や制御から脱して、自身の立てた規範に従って行動すること。対義語は「他律」
自立:
他の援助や支配を受けず、自分の力で判断したり身を立てたりすること。ひとりだち。対義語は「依存」。
(出典)広辞苑
自律と自立、読み方は同じですが異なった意味を持っています。「自律」は自分で決めたルールの中で主体的に行動できることであり、小さいころには一人でできず親が手を貸していたことが、成長に伴って一人でルールを決めて出来るようになるといった内的成長を意味します。その一方で、「自立」はひとりだち、すなわち自分の力で身体的、経済的、社会的、精神的に自分の力で判断できるようになることであり、社会のかかわりの中での成長と言えます。では、家庭教育を通じて、社会とのかかわりが重要な「自立」をどのように育んでいけばよいのでしょうか。
これからの時代に必要な非認知能力(社会情動的スキル)
家庭教育の話をする前に、学校教育で育む資質・能力についてみてみましょう。学校教育では、学習指導要領によって育成すべき資質・能力の3つの柱を定めています。中でも、「学びに向かう力 人間性等」(どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか)が教育の柱の最上位に位置付けられており、そのために教科等で「知識・技能」を身に付け、「思考力・判断力・表現力等」によって活用することを通じて、上位目標を実現することを示しています。
この中でも、「学びに向かう力・人間性等」は近年、社会情動的スキル(非認知的能力・スキル)とも呼ばれ非常に注目されているもので、すなわちテストで数値化できる知能(認知能力)ではなく、それ以外のものを広くとらえた「生きる力」のことを指します。
OECD(経済協力開発機構)(2015)によれば、社会情動的スキルの中身は、「目標の達成」(忍耐力、自己抑制、目標への情熱)、「他者との協働」(社交性、敬意、思いやり)、「情動の抑制」(自尊心、楽観性、自信)の3概念で分類されています。このような力は、学校教育への期待も大きいですが、むしろ家庭教育の中で普段の子どもとのかかわりの中でこそ、育むことができるのではないでしょうか。
親の働きかけこそが最高の教育機会
子どもが成人して自立し、ウェルビーイングを実現して生きていくために、特に家庭教育が重要な役割を果たすのは「幼児期」です。幼児期は人間形成の基礎固めをする発達段階であり、子どもが小さいご家庭は意識して、子どものもつ個性や感性を認め、伸ばしてほしいと思います。
しかし社会情動的スキルは大人になっても伸ばすことができると言われており、幼児期を過ぎた後も、18歳成人に向けて家庭で積極的に働きかけることは有益だと思います。中でも特に私がお勧めしたいのは、定額のお小遣いを子どもに渡して、予算内で管理する「お小遣いトレーニング」です。
キャッシュレスが進行し、現金を手にする機会が減りました。デジタル化は管理に便利な側面もありますが、使うとお金が減る感覚を持ちにくいものです。小学生の時期は定期的に決まった現金を渡し、使途範囲を決めて(例えばほしいお菓子は自分で買う等)、現金を使うトレーニングをすることが必要です。学年が上がれば、キャッシュレスの資金管理の練習として、電子マネー等を組み入れることも有益です。欲しいものがあってもお金が足りなくて我慢することで、忍耐力や自己抑制の力がつくでしょうし、計画をして自分でお金をためて手に入れることができれば、大きな自信を得ることができるでしょう。また、我が家の中1の娘を見ていますと、お小遣いは友達へのプレゼントを買うことに使っているようで、敬意や思いやりも育っているように思います。
子どもが欲しいものがあれば買ってあげる、これも親の喜びかもしれませんが、自立した大人になるための試練と思って、ぜひ家庭でお小遣いトレーニングを取り入れていただき、トレーニングを通じて、お金の話を家族でたくさんしてみましょう。このことが子どもの自己肯定感を育み、社会の主人公として生きていく基礎をつくっていくでしょう。
- 柿野 成美(かきの・しげみ)
- 法政大学大学院政策創造研究科 准教授 公益財団法人消費者教育支援センター 理事 首席主任研究員
愛知県出身。平成9年お茶の水女子大学大学院を修了後、平成10年より消費者教育支援センターに勤務。平成25年4月より現職。平成30年3月に法政大学で博士(政策学)の学位を取得。令和4年4月より法政大学大学院政策創造研究科准教授に着任。著書に「消費者教育の未来―分断を乗り越える実践コミュニティの可能性―」(法政大学出版局)がある。また、平成28年に告示された小学校学習指導要領(家庭科)の改定にかかわり、現在は、子ども達の消費者としての自立を目指して、全国各地で行われる消費者教育の実践を支援する活動を行っている。