FPによる知って得する!くらしとお金の話

第3回

人生100年時代の退職金・年金の受け取り方

コープ共済について

2023年9月

これまで見てきたように、引退後には「公的年金」「退職金・企業年金」そしてiDeCoのように自分で準備した「じぶん年金」の3つを受け取ることができ、受け取り始めるタイミングや受け取り方法をそれなりの選択肢の中から選ぶことができます。そして、多くの場合、一度もらい始めると、タイミングや受け取り方を変更することができませんから、50代のうちに受け取りプランを考えておくと良いと思います。

では、自分にとって最適な受け取り方とは何でしょうか?基本は、「老後の暮らしに必要な時にもらう」ということだと思います。「節税」などのお得にもらうことを優先して考えてしまうと、本当に必要なときに「お金が足りない」という事態に陥ってしまうかもしれません。これでは、本末転倒です。

老後の暮らしを支えられるような収入、つまり収入の空白期間を作らない受け取り方ができると安心です。途切れることなくお金が入ってくれば、暮らしが成り立つという面でも安心ですし、それだけ蓄えたお金を取り崩さず済むという意味でも安心です。そして、収入の空白期間を作らない受け取り方法を考える上でおすすめなのが、老後にもらえるお金をパズルのように組み立てる方法です。

パズルのピースとなるのは、先ほどの「公的年金」「退職金」「企業年金」「じぶん年金」だけでなく「働く収入」も大切なピースです。まずは60歳以降に、いつまでどれくらいの収入で働くか、考えてピースを作ってください。

このもらえるお金パズルの組み立て方は、受け取りのタイミングや受け取り方法の選択肢がない、または少ないものからおいていきます。次に空白になっている部分を他のピースで調整しながら、埋めていきます。最も、受け取りの自由度の高い、iDeCoは最後におくピースになると思います。

このもらえるお金パズル、これまでは定年時にもらった退職一時金で住宅ローンの残債を払い、引退後の暮らしは公的年金だけ、または企業年金や自らの金融資産を一部取り崩して加えることで少しゆとりを持って暮らす、というのが一般的でした。しかしこの方法では人生100年、またはもっと想定外に長生きするリスクも考えると、じぶん年金として準備する金融資産が相当ないと安心できません。さらに65歳になって資産を取り崩す段になると、長生きしても金融資産が底をつかないように、当初予定していた額を使うのさえ怖くなってしまって楽しみにしていた旅行や趣味を諦めてしまうというようなことになりかねません。

人生100年時代の今、退職金や年金の受け取りの基本はWPPと言われています。これは現在、第一生命にいらっしゃる谷内陽一さんという研究員が年金学会で提唱された考え方なのですが「長く働き=Work Longer」、つぎに「私的年金=Private Pension」でつなぎ、「公的年金=Pubulic Pension」を可能な限り繰り下げして手厚い年金額を生涯受け取る、というものです。

「公的年金」の特長は、なんといっても生涯支払われる終身年金であること、そしてひと月繰り下げするごとに0.7%増額される仕組みがあるということです。WPPの考え方に沿って、65歳までは現役並みに稼ぎ、65歳から70歳はアルバイト程度に働き、あとの生活費を退職金や企業年金、じぶん年金でカバーできるのであれば、公的年金を65歳からではなく70歳から受け取り始めることができます。そうすると年金額は、額面ベースでは42%も増額された額ですから相当な額を生涯受け取ることができます。そして、この増額された年金額だけで生活費がすべて賄えるのであれば、資産の寿命が自分の寿命の前に尽きてしまう不安から逃れることができます。

長生きリスクに備える方法として参考にしてみてください。

老後のお金に関する不安の多くは「わからないこと」が原因です。ぜひ、受け取り方も、パズルにして「見える化」することによって、みなさんの引退後の暮らしにとってベストな受け取り方を見つけてください。老後のお金の不安が小さくなれば、仕事に、学びに、趣味に、と60歳以降も新しいチャレンジをすることができます。

3回のコラムでお示しした考え方や選択肢が、定年後の新しい人生を楽しむためにお役に立てれば幸いです。

大江 加代(おおえ・かよ)
株式会社オフィス・リベルタス 代表取締役
「サラリーマンの資産形成」に関わる仕事に30年以上にわたって従事し、企業や公共団体で社員、職員向けの研修活動等を行う。確定拠出年金には日本で制度スタート前から関わり、2015年にNPO法人確定拠出年金教育協会の理事に就任。月間10万人以上が利用するiDeCoの関する情報サイト「iDeCoナビ」を立ち上げるなどiDeCoの普及活動も行っている。職域での資産形成・金融教育の専門家として「資産所得倍増分科会」や厚生労働省社会保障審議会「企業年金・個人年金部会」委員も務める。
【主な著書】「サラリーマン女子、定年後に備える」「定年後夫婦のリアル」「iDeCoのトリセツ」「図解 知識ゼロからはじめるiDeCoの入門書」

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