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第1回

事実婚、お金の「夫婦」認定は社会保障と税制で差

コープ共済について

2024年2月

「事実婚であっても、法律婚と同様に配偶者(パートナー)を亡くされた場合、遺族年金を請求することができます。ただし、亡くなった方の財産を相続する権利はありません」とセミナーで説明したところ、多くの方が驚かれていました。

社会保障と税制では、事実婚に対する取り扱いが異なります。今回は、法律婚と事実婚の社会保障と税制での「差」についてご説明しましょう。

法律上、婚姻を成立させるために届出するものに「婚姻届」があります。法律婚とは、婚姻届を提出した婚姻関係のことをいいます。一方、事実婚とは、婚姻届を提出していない夫婦(パートナー)関係のことで、婚姻の意思を持って、夫婦共同生活を営んでいる状態をいいます。

事実婚の場合も法律婚と同様に生活するうえで必要な社会保障制度や行政サービスなどを受けることができます。ただし、事実婚の場合、法律婚と同じように認められるためには、夫婦(パートナー)の関係を証明することが必要になります。

夫婦(パートナー)であることを証明するものとは

夫婦(パートナー)であることを証明するものには、一般的に「住民票」と「事実婚の契約書」などがあげられます。

まず、住民票ですが、住民票の続柄には、「夫(未届)」・「妻(未届)」という記載の仕方があります。お住まいの市区町村の窓口で手続きをする際、手続用紙には、1人を世帯主、もう1人の続柄欄に「夫(未届)」または「妻(未届)」と記入します。このように手続きすることで住民票には、夫(未届)または妻(未届)と記載されます。

次に、「事実婚の契約書」を作成するという方法があります。事実婚に関する契約書を公正証書で作成し、夫婦(パートナー)の関係を第三者に対して証明する資料として使うことができます。契約書には、「婚姻の意思があること」、「生計を同一にすること」、「子どもが生まれた場合、共同で養育すること」、「事実婚関係を解消した時の財産分与」といったことなどお互いに取り決めた事柄や内容などを書面にし、公正証書(公証役場で手続きが必要)で残しておきます。

法律婚の取扱いと同等のもの

事実婚の場合も法律婚と同様に「配偶者や子どもを健康保険の扶養に入れる」、「遺族年金を請求する」、「慰謝料を請求する」といったことが認められるケースがあります(下表参照)。

【法律婚と事実婚の取扱いについて】
  法律婚 事実婚
配偶者の相続権 あり なし
財産を承継させたい場合、贈与や遺言で対応する必要あり
相続税の配偶者の税額軽減 あり なし
所得税の配偶者控除 あり なし
住民票の記載 夫/妻 夫(未届)/妻(未届)

重婚でない等、婚姻要件の確認をした上で記載

子どもの親権 夫婦共同親権 単独親権(原則母親)
住宅ローンの収入合算 可能 一部の金融機関で可能
医療・ケアの方針の決定手続きにおける「家族等」 ガイドラインにおいて、法的な意味での親族関係のみを意味せず、より広い範囲の人(親しい友人等)を含むとされており、各病院において判断されている。
健康保険の扶養家族 認められる 認められる
国民年金の第3号被保険者 認められる 認められる
公的年金制度の給付 認められる 認められる
育児・介護休業法に基づく各種制度(介護休業、介護休暇等) 可能 可能
同居協力扶養義務 あり あり(解釈(裁判例等)による)
貞操義務 あり あり(解釈(裁判例等)による)
婚姻費用分担請求権 あり あり(解釈(裁判例等)による)
日常家事債務の連帯責任 あり あり(解釈(裁判例等)による)
生命保険の死亡保険金受取人指定 可能 生命保険会社により異なる

令和3年12月内閣府男女共同参画局資料より作成

①健康保険の被扶養者

会社員などが加入する健康保険では、年収130万円未満(60歳以上の人や障害者は180万円未満)などの要件を満たす配偶者(パートナー)は、健康保険の被扶養者となり、保険料を負担せずに保険給付を受けることができます。さらに、配偶者(パートナー)の連れ子や父母についても、同居していることなどの条件を満たせば、被扶養者とすることもできます。

なお、事実婚関係を確認するために夫婦それぞれの戸籍謄(抄)本等が必要となります。

②遺族年金

厚生年金保険や国民年金の被保険者等が亡くなった場合、条件を満たしていれば、事実婚の配偶者(パートナー)も、遺族年金(遺族厚生年金、遺族基礎年金)を請求することができます。ただし、請求にあたっては、日本年金機構に事実婚関係であることを認めてもらう必要があります。

認定にあたっては、健康保険の被扶養者になっている、給与計算上、扶養手当等の対象になっているなどケース別に、証明書類が必要となります。

③国民年金の第3号被保険者

国民年金の第3号被保険者とは、厚生年金保険に加入している第2号被保険者に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者(年収が130万円未満等の条件あり)のことをいいます。第3号被保険者期間は、国民年金の保険料を個別に納付しなくても、保険料納付済期間として取り扱われます。

④その他

令和4年4月から、不妊治療が保険適用されていますが、事実婚関係の場合も保険適用されます。

法律婚の取扱いが異なるもの

次に、法律婚と取扱いが異なるものをご説明します。

①税制関係

事実婚関係では、法律上の配偶者と認められていないため、税制上の配偶者控除、配偶者特別控除などの適用を受けることができません。これらの税制上の控除を受けるには、民法の規定による配偶者であることが条件になっています。

また、同様の理由で事実婚である夫婦(パートナー)のどちらかが亡くなった場合、その配偶者(パートナー)に相続権や相続税の配偶者の税額軽減などの適用もありません。事実婚で配偶者(パートナー)に財産を承継させたい場合には、遺言書による遺贈や、生前贈与などの方法を検討することになります。

②生命保険

民間の生命保険会社の場合、生命保険の死亡保険金受取人に指定できるのは、原則戸籍上の配偶者と2親等以内の血族です。ただし、生命保険会社によっては、条件がありますが、事実婚関係の配偶者(パートナー)を受取人に指定することができます。

③子どもの親権

子どもの親権については、法律婚が「夫婦共同親権」となっていますが、事実婚の場合は、単独親権で原則として母親となります。なお、父親が子どもを「認知」することにより、母親と父親双方の相続権が認められます。

以上、社会保障については、生活実態を重視しているため、事実婚関係の証明をすることができれば、法律婚と同様に各種制度が適用されます。一方、税制については、法律上の婚姻関係がなければ、各種控除などの適用を受けることができません。

望月 厚子(もちづき・あつこ)
社会保険労務士。ファイナンシャル・プランナー(CFP、1級FP技能士)。
望月FP社会保険労務士事務所所長。
年金・資産運用・保障設計・住宅ローン・ライフプラン・セカンドライフ等の個人相談業務、社会保険・労働保険等の法人相談業務、新聞・雑誌等への執筆、各種セミナー講師も務める。
・さいたま家庭裁判所より、成年後見人を受任
・厚生労働省社会保障審議会年金部会・専門委員会委員を受任
・日本年金機構 地域型年金委員
・年金マスター
・両立支援コーディネーター

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