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第3回

成年後見 自宅売却や医療、思わぬ盲点も~人生100年の羅針盤 認知症と生きる

コープ共済について

2024年6月

「親が認知症になったら、銀行口座からお金が引き出せなくなるのかしら?」、「認知症の親が介護施設に入所するけれど、子どもたちで自宅の処分をしてもよいものなのか?」といったご相談があります。

たとえ、親子でも、親の銀行口座から勝手にお金を引き出すことや、自宅を処分することはできません。

今回は、判断能力が不十分な人を支援する「成年後見制度」について、ご説明します。

成年後見制度とは

認知症、知的障害、精神障害などの理由で判断能力の不十分な人の場合、預貯金や不動産などの財産を管理したり、身のまわりの世話のために介護などのサービスに関する契約を締結することが難しいことがあります。

また、自分に不利益な契約や不必要な契約を締結してしまうなど悪質商法の被害にあう恐れがあります。

成年後見制度は、このような判断能力の不十分な人を保護し、支援する制度です。

成年後見制度には、大きく分けて、「法定後見制度」と「任意後見制度」があります。

法定後見制度

法定後見制度は、すでに判断能力が不十分である人に対して、家庭裁判所が成年後見人等(成年後見人、保佐人、補助人)を選任し、本人の財産管理や法律行為を代わりに行う、あるいは援助することで、本人の財産や権利を法的に支援します。 

法定後見制度は、本人の判断能力に応じて、「後見」、「保佐」、「補助」の3つに分かれ、それぞれの支援を行う人を「成年後見人」、「保佐人」、「補助人」といいます(図表‐1参照)。

図表-1

法定後見制度(出典元:法務省)

類型 後見 保佐 補助
対象者 判断能力が欠けているのが通常の状態の人 判断能力が著しく不十分な人 判断能力が不十分な人
申立権者 本人、配偶者、四親等内の親族、検察官、市町村長(注1)など
成年後見人等の同意が必要な行為 民法第13条1項所定の行為(注2)(注3)(注4) 申立ての範囲内で家庭裁判所が審判で定める「特定の法律行為」(民法第13条1項所定の行為)(注1)(注2)(注4)
取消権が可能な行為 日常生活に関する行為以外の行為 同上(注2)(注3)(注4) 同上(注2)(注4)
成年後見人等に与えられる代理権の範囲 財産に関するすべての法律行為 申立ての範囲内で家庭裁判所が審判で定める「特定の法律行為」(注1) 同左(注1)
  • (注1)本人以外の人の請求により、保佐人に代理権を与える審判をする場合、本人の同意が必要。
    補助開始の審判や補助人に同意権・代理権を与える審判をする場合も同様。
  • (注2)民法第13条1項では、借金、訴訟行為、相続の承認・放棄、新築・改築・増築などの行為が挙げられている。
  • (注3)家庭裁判所の審判により、民法第13条1項所定の行為以外についても、同意権・取消権の範囲を広げることができる。
  • (注4)日常生活に関する行為は除く。

成年後見人等の役割には、生活や医療、介護などの手配や契約締結、履行状況の確認などを行う「身上監護」と預貯金や不動産などの管理・取引を行う「財産管理」があります(図表‐2参照)。

図表-2

成年後見人等の役割(一例)

身上監護
  • 健康診断などの受診手続き
  • 要介護認定の申請手続き
  • 介護サービスの契約締結
  • 施設入所の手続きや施設費の支払い
  • 医療機関への入退院手続きや医療費の支払い

など

財産管理
  • 預貯金の管理
  • 公的年金の管理
  • 保険金請求
  • 税金の支払い
  • 自宅や賃貸物件等の不動産の管理
  • 役所への各種届出
  • 本人が行うべき法律行為(遺産分割手続き、相続など)

など

《後見》

家庭裁判所が選任した成年後見人が、本人の利益を考えながら、本人を代理して契約締結などの法律行為をしたり、本人が行った不利益な法律行為を後から取り消すことができます。ただし、日用品の購入など「日常生活に関する行為」については、取消しの対象になりません。

《保佐》

お金を借りたり、不動産を売買するなど法律で定められた一定の行為(民法第13条1項各号に定められた法律行為⇒借金、訴訟行為、相続の承認・放棄、新築・改築・増築などの行為)について、家庭裁判所が選任した保佐人の同意を得ることが必要になります。保佐人の同意を得ないでした行為は、後から取り消すことができます。ただし、日常生活に関する行為については、保佐人の同意は必要なく、取消しの対象にもなりません。

なお、家庭裁判所の審判によって、保佐人の同意権・取消権の範囲を広げたり、特定の法律行為について保佐人に代理権を与えることもできます。

《補助》

家庭裁判所の審判によって、特定の法律行為について、家庭裁判所が選任した補助人に同意権・取消権や代理権を与えることができます。ただし、補助人に代理権を与えるためには、本人が申し立てる場合を除き、本人の同意が必要になります。

日常生活に関する行為については、補助人の同意は必要なく、取消しの対象にもなりません。

任意後見制度

任意後見制度は、将来、判断能力が低下した場合に備えて、「誰に」、「どのような支援をしてもらうか」といったことをあらかじめ、判断能力のあるうちに契約(任意後見契約)により決めておく制度です。

任意後見契約は、公証人の作成する「公正証書」によって結ぶものとされています。

本人が自ら選んだ支援してくれる人を「任意後見人」といい、任意後見契約時に本人と任意後見人となる当事者間で合意した特定の法律行為の代理権の範囲で支援します。

なお成年後見制度と異なり、取消権や同意権はありません。

本人の判断能力が不十分になった場合、家庭裁判所で任意後見監督人が選任されて初めて任意後見契約の効力が生じます。

成年後見制度でできないこと

様々な役割を担う成年後見人等ですが、成年後見人等ができないこと(権限が与えられていない)もあります。

①事実行為

掃除、洗濯、食事の介助などはできませんが、身の回りの世話は、介護サービスの契約を締結することで、これらを受けられるように手配することができます。

②身分行為

養子縁組、婚姻、離婚、子の認知などの届出等は、本人の自己決定権を尊重するため、できません。

③医療行為の同意

手術や延命治療の拒否、臓器移植など医療行為についての同意はできません。

④日常生活上の消費の取り消し・同意

日用品や衣料品、食品などの購入は、本人の意思が尊重されるため、取り消しや同意はできません。

⑤保証人になること

医療機関への入院や介護施設入所等の保証人や身元引受人になることはできません。

⑥利益相反となる行為

本人と成年後見人等が相続人になる、本人所有の不動産を成年後見人が購入するなどの行為はできません。

銀行口座からの引き出しや自宅の処分は?

さて、冒頭で相談があった認知症になった親の銀行口座からの引き出しや自宅の処分については、原則として子どもであっても行うことはできません。

ただし、一般社団法人全国銀行協会では、本人が意思を明確に示せない場合でも、預金者本人との関係がわかる書類等で家族であることが証明され、使い道が預金者本人の介護施設の費用の支払いといったことなどが確認できれば、預金口座からお金を引き出すことができることがあるとしています。

ただし、預金者本人以外が継続的に預金の引き出しを希望する場合は、成年後見制度の利用の検討を促しています。

次に、本人の自宅の処分についてですが、成年後見人等であっても、勝手に処分することはできません。自宅の処分は、家庭裁判所の許可を得なければできません。

家庭裁判所は、処分の必要性や現在の生活状況などを考慮して、処分行為を決定します。

最後に、法定後見制度を利用する場合ですが、本人の居住地を管轄する家庭裁判所で申立てを行います。

各家庭裁判所のホームページでは、申立の手続きの方法や、必要書類、申立に係る費用などを確認することができます。

望月 厚子(もちづき・あつこ)
社会保険労務士。ファイナンシャル・プランナー(CFP、1級FP技能士)。
望月FP社会保険労務士事務所所長。
年金・資産運用・保障設計・住宅ローン・ライフプラン・セカンドライフ等の個人相談業務、社会保険・労働保険等の法人相談業務、新聞・雑誌等への執筆、各種セミナー講師も務める。
・さいたま家庭裁判所より、成年後見人を受任
・厚生労働省社会保障審議会年金部会・専門委員会委員を受任
・日本年金機構 地域型年金委員
・年金マスター
・両立支援コーディネーター

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