2024年11月
空き家は、いまや深刻な社会問題になっています。
総務省が2024年9月25日に公表した「令和5年住宅・土地統計調査(確報集計)」によると、日本の空き家の数は、なんと900万戸! 空き家率は13.8%に達しています。いまや日本の住宅の7件に1件が空き家になっているのです。
そのため、住まいの終活を考えるために、空き家の現状と対策方法について知っておくことは大切です。
1.住まいの終活とは?
「終活」という言葉が世の中に出てから約15年が経ち、社会にもすっかり浸透してきました。
終活とは、「人生の後半期をいきいきと生きること、そしてあとを託す家族が困らないように準備をすること」をいいます。
終活には幅広い分野があります。たとえば、老後の生活、生きがい、働きかた、医療・介護、お葬式、お墓、相続などなど…。そして、住まいの終活として、「老後の住まい」や「家族へのマイホームの残しかた」も、重要な終活の分野とされています。
「老後の住まい」では、自宅を終の棲家にしたい、老人ホームで暮らしたいなど、生前の住まいの希望について考えます。一方、「家族へのマイホームの残し方」で大切なことは、家族に負担をかけないように、「元気なうちに、亡くなった後の自宅について道筋をつけておくこと」です。
それでは、住まいの終活を考えるために、空き家問題の現状を見ていきましょう。
2.空き家は4種類 問題のある空き家とは?
総務省は、空き家を次の4種類に分け、空き家の数を公表しています。
- ①賃貸用の空き家
- アパート、マンション、貸家など、人に貸すための建物…約444万戸
- ②売却用の空き家
- 新築住宅、中古住宅など、売りに出されている建物…約33万戸
- ③二次的住宅の空き家
- セカンドハウスや別荘など、定期的に使用する建物…約38万戸
- ④その他の空き家
- ①②③以外の空き家で使っていない建物…約386万戸
総務省の公表資料では、④を「賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家」という名称で分類していますが、本コラムでは「その他の空き家」と表記します。
4種類の空き家のうち、特に深刻な社会問題になっているのが「その他の空き家」で、いわゆる「実家の空き家」と言われています。
「その他の空き家」が問題となっている理由は、増加率が飛びぬけて高いことです。
「賃貸用の空き家」は直近20年間で1.2倍に増えました。それに対して「その他の空き家」は20年間で1.8倍に増えています。45年前の1978年からは、なんと約4倍になっているのです。
空き家数及び空き家率の推移
3.空き家が増えている理由
日本の空き家率は世界でも最も高いと言われています。日本で空き家が増えた理由には、次のようなものがあります。
①新築住宅の着工が多く、取り壊した住宅が少ない
2024年の新築住宅の着工戸数は82万戸でした。これは先進国の中でも高い水準で、1000人当たりの着工戸数で見ると日本が6.8戸と、アメリカの4.8戸やイギリスの3.1戸と比較してもかなり高くなっています。(※1)
一方、同年に解体された住宅の数は10.4万戸でした。差し引き約72万戸も増加したことになり、これが空き家の増加につながっているとされています。
②人口減少
日本は少子高齢化、人口減少という問題を抱えています。人口はすでに2004年をピークに20年間減少し続けています。2024年10月1日の総人口は1億2,379万人で1年前から56万人も減少しています。(※2)
現在はまだ増加している世帯数も、2030年をピークに減少に転じると予測されており、空き家の増加に拍車がかかることが予想されます。
③高齢者世帯の増加
日本の世帯構成を見ると、総世帯のうち、単身高齢者世帯の割合が16.1%、高齢夫婦世帯の割合は16.2%で、合わせると全体の約3分の1を高齢者世帯が占めています。
そのため、いずれ高齢者が亡くなると誰も住まずに空き家になってしまう住宅も増加すると見られています。(※3)
④中古住宅の人気がない
日本では、中古住宅の人気がありません。住宅全体の流通に占める既存住宅(中古住宅)の割合はわずか14.5%で、アメリカ(76.4%)、イギリス(86.9%)と比較すると著しく低い割合となっています。(※4)
日本では長い間、住宅の質よりも量が重視された時代が続いたため、中古住宅には「古い」「きたない」「分からない」というイメージが定着してしまい、その結果、中古住宅の不人気につながっているのです。
そのため、売りたくても買い手がつかず、そのまま放置されてしまっている実家の空き家が多数存在しています。
他にも、とりあえず空き家にしておくという気持ちの問題、相続トラブルのために空き家の売却ができない、といった理由があります。
4.空き家はどうして問題なのでしょう?
空き家の問題は、大きく2つあるとされています。
➀空き家は近所に迷惑をかける
空き家は近隣に対して、景観、安全、衛生など、さまざまな面で悪影響を与えてしまいます。
ごみ屋敷、おばけ屋敷と言われるような空き家があると、近隣の土地価格が下がるとまで言われています。
また、空き家のうち、約77%が1980年以前に建てられています。この時期に建設された住宅は旧耐震基準のため、大規模な地震が発生したときに倒壊の危険が極めて高く、近隣にも被害を及ぼす可能性があります。(※5)
最近は、空き家をアジトに使う犯罪者グループも増えています。
このように、空き家は大きな近所迷惑になり得るのです。
②空き家はお金がかかる
空き家を所有していると、さまざまなコストがかかります。
空き家のコストには、「経済的なコスト」と「精神的なコスト」があります。
経済的なコストとは、税金、光熱費、除草や庭木の剪定、清掃、ごみの片付け、修理費など、実際に出ていくお金のことで、年間数万円から数十万円の負担が続きます。
さらに、空き家が遠方にあると、空き家を管理するために交通費や多くの時間もかかります。
一方、精神的なコストとは、近所からの苦情や部外者の侵入、犯罪や災害への不安などが心の負担としてのしかかってくることを言います。
これらのコストは空き家を所有している限り、かかり続けます。やがて、当初は「不動産」と思っていた空き家が、「負不動産」に変わってしまうことになるのです。
次回は、空き家を引き継いだ場合の対応方法について解説をします。
出所
- ※1国土交通省「令和5年度 住宅経済関連データ・住宅水準の国際比較」
- ※2国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計~令和6年推計」2024年4月12日公
表
- ※3国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料2024」2024年5月10日
- ※4国土交通省「令和5年度 住宅経済関連データ・既存住宅の流通シェアの国際比較」
- ※5国土交通省「社会資本整備審議会住宅宅地分科会空き家対策小委員会とりまとめ参考データ集」2023年2月7日
- 橋本 秋人(はしもと・あきと)
- FPオフィスノーサイド代表
ファイナンシャル・プランナー(CFP®認定者、1級FP技能士)、終活アドバイザー、金融経済教育推進機構(J-FLEC)認定アドバイザー
NPO法人ら・し・さ(終活アドバイザー協会)副理事長、日本FP協会評議員、東京電子専門学校非常勤理事
東京都出身。大手住宅メーカーで30年以上、顧客の相続対策支援、不動産活用、分譲地開発などに携わる。独立後は、終活、相続、住宅、不動産投資を中心にセミナー、コンサルティング、相談、執筆などを行っている。
執筆「知って安心!不動産の相続2024年版(講談社・共著)」など