2025年3月
深刻化する空き家問題に対して、国などもさまざまな対策を講じています。
空き家問題の解決に当たっては、国や自治体の空き家対策を知り、上手に活用することも有効な方法になります。
今回は、国が講じている主な空き家対策のための制度について紹介します。
1.空家等対策の推進に関する特別措置法(空き家特別措置法)
この法律は、管理が不十分で、防災、衛生、景観など、近隣に悪影響を与えている有害な空き家を減らすことを目的として、2015年に施行されました。
自治体(市区町村)は、このような有害な空き家を「特定空家等」に指定し、所有者に対策を講じさせることを定めています。
空き家が「特定空家等」に指定されると、自治体は所有者に対して、助言または指導を行います。それでも改善されない場合は、勧告、さらに命令と段階的に強く改善を求めますが、最終的に命令にも従わなかった場合、自治体が所有者に代わって空き家を解体するなどして、その費用は所有者に請求します。また命令に従わない所有者に対しては50万円以下の過料を課すことができます。
なお、勧告の段階で、「小規模住宅用地の固定資産税等の特例」が適用できなくなり、土地の固定資産税、都市計画税が大幅に上がってしまいます。
■媒介契約の種類と特徴

※国土交通省「空家等特別措置法について」令和3年2月4日
空き家特別措置法は2023年12月に改正され、あらたに「管理不全空家等」が創設されました。「管理不全空家等」とは、現段階では倒壊の危険まではないが、このまま管理をしないで放置しておくと、いずれ「特定空家等」になってしまう可能性が高い空き家のことです。「管理不全空家等」に指定され、勧告に至った場合は、「特定空家等」と同様、固定資産税等の特例が受けられなくなります。
2.空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除
相続した空き家を相続から3年後の12月末(※注)までに売却した場合、一定の条件を満たせば、空き家を売却して得た利益から最大3,000万円の控除を受けることができます。
主な条件は以下の通りです。
- 1被相続人が亡くなる直前まで住んでいたこと。ただし、被相続人が介護認定を受けて老人ホームに入所していた場合には、住んでいなくても適用されます。
- 2建物は1981年(昭和56年)5月31日以前に建築されていること。つまり、旧耐震基準の空き家が対象になります。
- 3建物を耐震改修して現行の耐震基準に適合させるか、建物を解体すること。ただし、買主が空き家を購入した年の翌年2月15日までに耐震リフォームか解体を行っても適用対象となります。
- 4売却金額は1億円以下。
その他にも諸条件があるため、詳細については税理士や税務署に相談してください。
(※注)本記事の執筆時(2025年2月10日時点)での適用期限は2027年12月31日までの譲渡となっています。2025年度税制改正により変更される可能性があります。
3.相続土地国庫帰属制度
2023年4月27日に、相続した土地を国が引き取ってくれるこの制度が始まりました。
この制度によって、今まで相続人の大きな負担となっていた「相続した売れない空き家」の解消につながる可能性があります。
ただし、どのような土地でも引き取ってもらえるわけではなく、帰属にはハードルがあり、次の10項目にあてはまる土地は引き取ってもらえません。
(1)申請却下(申請できない)
- 1建物がある土地
- 2抵当権や使用収益権(地上権、賃借権など)が設定されている土地
- 3現在、他人が使用、今後も使用される土地(通路、墓地、境内など)
- 4土壌汚染されている土地
- 5境界が不明の土地、争いがある土地
(2)不承認(審査段階で以下の項目に該当すると判断された場合)
- 6崖があり、管理に過分な費用や労力がかかる土地
- 7地上に工作物、放置車両、樹木などがある土地
- 8地下に産業廃棄物、ガラ、浄化槽、井戸などがある土地
- 9隣地との訴訟によらなければ解決できない土地(袋地など)
- 10その他、通常の管理・処分をするために過分な費用や労力がかかると判断された土地
将来この制度を利用したい場合は、まず条件に当てはまる土地かどうかを確認し、問題がある場合はあらかじめ解決しておくことが重要です。
なお、この制度を利用する場合、審査手数料と負担金の納付も必要です。
(3)審査手数料
土地1筆あたり1万4,000円
(4)負担金
負担金とは、10年分の土地管理費用相当額をいいます。審査の結果、帰属が認められた場合には、負担金を通知到達日から30日以内に納めなければなりません。負担金は、土地の性質によって算出方法が定められています。
たとえば、市街化区域等にある宅地の場合は次の表により負担金を算出します。
■負担金の計算式(市街化区域等にある宅地の場合)
面積区分 | 負担金額 |
---|---|
50m2以下 | 面積×4,070円+208,000円 |
50m2超100m2以下 | 面積×2,720円+276,000円 |
100m2超200m2以下 | 面積×2,450円+303,000円 |
200m2超400m2以下 | 面積×2,250円+343,000円 |
400m2超800m2以下 | 面積×2,110円+399,000円 |
800m2超 | 面積×2,010円+479,000円 |
※法務省「相続土地国庫帰属制度の概要」より筆者作成
【計算例】市街化区域にある200m2の宅地の負担金は?
宅地の面積を表にあてはめて計算します。
計算式 200m2×2,450+303,000円=793,000円
相続土地国庫帰属法が始まってから2024年12月31日までの運用状況は以下の通りです。
申請件数 3,199件
帰属件数 1,186件(宅地466件、農用地363件、森林50件、その他307件)
却下件数 51件
不承認件数 46件
申請件数に対して帰属件数が少ないように見えますが、実際には、申請から帰属まで半年から1年近くかかるため、今後帰属件数の割合は高まっていくと予測されます。
4.相続登記の義務化
2024年4月から、相続登記が義務化されました。被相続人が亡くなってから3年以内に正当な理由なく相続登記を行わない場合は、10万円以下の過料が課せられます。
注意したいのは、この法律が施行される前の相続についても義務化の対象で、2027年3月31日までに相続登記をしないと、10万円の過料が生じることです。
そのため、司法書士などの専門家に相談し、早期に手続きを行う必要があります。
5.まとめ
国の制度について解説してきましたが、国だけでなく多くの自治体でもさまざまな空き家対策のための取組みを行なっています。具体的には、空き家や危険な塀の解体、耐震診断・耐震改修の補助、空き家の有効活用に対する助成などがあります。ただし、全ての自治体に制度があるわけではなく、補助の対象や金額も異なります。関心がある人は、空き家・空き地がある市町村に問い合わせてみましょう。
空き家問題の解決のために大切なことは、空き家発生の可能性について家族で話し合うこと、空き家になった場合の対応について検討し家族で合意することです。
その際に、国や自治体のサポートを知っておくことが役に立つケースがあります。対策の方法によってはFP、税理士、弁護士、不動産会社などの専門家のアドバイスも受けながら、早期にできる対策は実行するようにしましょう。

- 橋本 秋人(はしもと・あきと)
- FPオフィスノーサイド代表
ファイナンシャル・プランナー(CFP®認定者、1級FP技能士)、終活アドバイザー、金融経済教育推進機構(J-FLEC)認定アドバイザー
NPO法人ら・し・さ(終活アドバイザー協会)副理事長、日本FP協会評議員、東京電子専門学校非常勤理事
東京都出身。大手住宅メーカーで30年以上、顧客の相続対策支援、不動産活用、分譲地開発などに携わる。独立後は、終活、相続、住宅、不動産投資を中心にセミナー、コンサルティング、相談、執筆などを行っている。
執筆「知って安心!不動産の相続2024年版(講談社・共著)」など