2025年8月
「三つ子の魂百まで」ということわざがあります。
物心がつく前から親の行動や考え方に触れて育ってきた子どもの金銭感覚は親から教わるというより、親の背中をみて培ってきたものといえます。家庭によってはしつけの一環としてお金の教育を熱心に取り組んでおられるケースも少なくありませんが、各家庭で培った金銭感覚は、自我が目覚めてくると友達同士であっても隔たりが生じ、トラブルの原因となります。
お金の教育とは知識だけではなく、生きていくための知恵も学ぶことが重要です。
今までは、お金のことは家庭で学ぶもので、学校では学ぶものではないという考えが多かったと思います。しかし、家庭内でも「お金は汚いもの」「お金のことを人前で話すのは良くないこと」とタブー視されてきた結果、お金のことが苦手になったのかもしれません。
そんな中、国策とも言える「貯蓄から投資へ」が叫ばれるようになり、学校の中でもお金の教育を取り入れていくようになりました。学校教育では学習指導要領に基づき、各教育段階で体系的に組み込まれ、2022年の改訂によって金融リテラシーを育む内容に強化されています。
金融リテラシーとは、日常生活や経済活動をおこなう際にお金に関する知識やスキルを持ち、正しい意思決定ができる能力のことです。 収入・支出の管理や貯蓄、投資、保険、年金、借入、金融トラブルなど、金融商品の仕組みやリスクを理解し、ライフプランに応じた適切なお金の管理ができる能力が含まれます。
さて、学校教育における段階的な学習内容としては、小学校では、お金の使い方や計画的な消費について家庭科や社会科で学びます。中学校になると市場経済や金融の仕組みを理解して消費者の権利や責任について公民科で学びます。高校になると資産形成や金融トラブルの防止、ライフプランニングについて家庭科や公民科で学びます。
高校での金融教育で重要視されるものとして「健全な意思決定を行い、個人の幸福を達成するために必要な知識・技術・態度・行動総体」というOECD(経済協力開発機構)の定義する金融リテラシーの向上を目指します。この金融リテラシーを高めることにより、家計管理ができるようになり、計画的にお金を準備して夢や希望を実現しやすくなります。また、いざという時の備えができているので危機が起こっても対応でき、金融トラブルに遭うことが少なくなります。結果、経済的に自立して、より良い暮らしを送ることができます。
実際、成人年齢が18歳に引き下げられ、自ら金融契約が行えるようになり、出来る限り早期の金融教育が必要といえるでしょう。金融トラブルにおいては詐欺や多重債務を防ぐために契約や金融商品の理解が求められます。また、少子高齢化に伴い、公的年金だけではなく、個人の資産形成が重視されます。このように高校での金融教育が必修化されましたが、まだまだ机上の理論ばかりで実践的な教育が行われておらず、効果は限定的になりがちです。特に「貯蓄から投資へ」と叫ばれていく割には資産運用の知識は不足していると言わざるをえません。
金融庁では、「高校生のための金融リテラシー講座」を作成して授業の中で活用できるように次の6つの項目を重要視しています。
- 1家計管理とライフプランニング」(働いて「稼ぐ」ことと将来設計について)
- 2お金の使い方(ニーズとウォンツの区別、キャッシュレス決済のメリットと注意点)
- 3お金の貯め方(資産形成、リスク管理)
- 4お金の備え方(社会保険・民間保険)
- 5お金を借り入れる仕組み(クレジットカード・奨学金)
- 6金融トラブルの防ぎ方(マルチ商法・SNS個人間融資)
このように学校教育の中でお金の授業が取り入れられていますが、それで十分ではありません。個別に金融リテラシーを高めるためには学校だけに頼るのではなく、家庭内でのお金の教育がもっとも重要となります。まずは保護者が金融リテラシーに興味を持ち、自ら実践する姿を見せるところから始めましょう。
具体的には、「家計簿をつける」「予算制をとって買い物をする」「NISAやiDeCoなどで資産運用を始める」「保険証書を見返す」など、日々の生活の中に取り入れ、家族で話し合ったり、相談を持ち掛けたりすれば、自然とお金の話がしやすい環境となり、親子間での垣根がなくなりタブーだった話題も気楽に話せる親子関係を築くことができます。
その結果、身近で実践的なお金の教育を自然と学んでいきます。特に高校生ともなるとアルバイトでお金を稼ぐようになるので収入と支出について一緒に考えてみてはいかがでしょうか。思い切って我が家の給料明細をオープンにして家計のヤリクリを家族全員で家計簿をみながら検証してみるのもいいかもしれません。
お金を稼ぐ事の意義や家計を守るための責任感などを実感させるにはいいタイミングかもしれません。このように家庭と学校が連携して金融リテラシーの向上に取り組んでいくことが何よりも必要なことではないでしょうか?

- いちのせかつみ(いちのせ・かつみ)
- 1959年 大阪府生まれ。大阪府東大阪市在住。
生活経済ジャーナリストとしてテレビ・ラジオのコメンテーター、執筆活動など多方面で活躍中。
家計から見た人生設計など親しみのある大阪弁での肩のこらないセミナーが好評。
お笑い系ファイナンシャル・プランナー 芸名:ゆかい亭マネー