2025年12月
社会保障教育の必要性
高校生が社会に出る前に学んでおかなければいけないことは山積みです。
金融教育もその一つですが、少子高齢化が進み、高校生にとっては先の見えない世の中を生き抜くための知恵の習得は必要不可欠です。
これから起こるであろう様々な出来事への対応策や解決策を見出しながら生きる力を身につけなければなりません。
その最たるものが社会保障教育だといえます。社会保障はライフプランを考える中で様々な生活の困りごとや心配ごとに対して補ってくれる制度であり、知らないと損をするといっても過言ではありません。
この社会保障制度を理解し、必要な時に活用できるようになっておくために社会保障教育は高校生にとって大切な教育といえます。
学習指導要領での社会保障教育の取り扱い方
現在、高校では学習指導要領で授業科目「公共」において次の事項が目標とされています。
また、その内容と取り扱いは次のとおりです。
少子高齢社会における社会保障の充実・安定化については、疾病や失業、加齢など様々な原因により発生する経済的な不安やリスクを取り除くなどして生活の安定を図り、人間としての生活を保障する社会保障制度の意義や役割を理解できるようにするとともに、我が国の社会保障制度の現状と課題などを、医療、介護、年金などの保険制度において見られる諸課題を通して理解できるようにする。
なお、「『財政及び租税の役割、少子高齢社会における社会保障の充実・安定化』については関連させて取り扱い、国際比較の観点から、我が国の財政の現状や少子高齢社会など、現代社会の特色を踏まえて財政の持続可能性と関連付けて扱うこと」が必要であり、社会保障に関わる受益と負担の均衡や世代間の調和のとれた制度の在り方について触れることが大切である。
その他の授業科目「家庭基礎」の目標を、「生活の営みに係る見方・考え方を働かせ、実践的・体験的な学習活動を通して、様々な人々と協働し、よりよい社会の構築に向けて、男女が協力して主体的に家庭や地域の生活を創造する資質・能力を育成することを目指す。」として、授業科目「家庭総合」の目標では、「生活の営みに係る見方・考え方を働かせ、実践的・体験的な学習活動を通して、様々な人々と協働し、よりよい社会の構築に向けて、男女が協力して主体的に家庭や地域の生活を創造する資質・能力を育成することを目指す。」とされています。
このように学習指導要領では、難しい表現となっていますので「何故、教育が重要なのか」を、もう少し分かりやすく説明します。
現在、社会保障制度の持続可能性が問われているにも関わらず、制度のことを知らなかったり、使えないことで生活が困難に陥る人が多いという現状があり、将来、社会人として生活を送る上で、他人ごとではなく、自分の問題だと意識して、相談する力や制度を使う力を育むことが求められているということです。
具体的な教育内容のポイントは、
- 1社会保障制度の基本的な仕組みである医療保険、介護保険、年金、子育て支援などを学びます。
- 2人生の困難に備えるセーフティネットとしての社会保障の役割を理解します。
- 3自分自身の生活の中で社会保障がどのように関わっているかを考える力を育みます。
社会保障制度の全体像とは
さてここで、高校生以外の方々も社会保障制度の全体像について改めて確認しておきましょう。
社会保障制度は、社会保険、公的扶助、そして、社会福祉の三つに分かれます。
- 社会保険(保険方式)は、働く人が保険料を支払い、困った時に給付を受ける制度です。具体的には、老後の生活保障(年金保険)、病気やケガ(医療保険)、高齢者の介護(介護保険)、労働者の雇用保障(雇用保険)、労働者の労働災害(労災保険)などです。
- 公的扶助(税方式)は、困っている人を税金で支援する仕組みをいいます。生活保護や住宅扶助、教育扶助などがあります。
- 社会福祉(サービス提供)は、障害者、高齢者、子どもなど、特別な支援が必要な人への福祉サービスで、障害者支援、高齢者支援、保育所、母子家庭支援などがあります。
補足としては、貯金や民間保険などで自分で備える「自助」があり、みんなで年金や医療などの社会保険で支え合う「共助」と税金による福祉や公的扶助で国や自治体が支援する「公助」があり、これらがバランスよく組み合わさった社会保障制度で私たちの生活が支えられています。
いかがでしょうか?大人でも知らないことばかりかもしれません。何故ならこんな大切な事を学校で習ってこなかったからです。
高校での社会保障教育の授業とは
では、現在の高校ではどのような授業を実施しているのでしょうか?
「主体的、対話的で深い学び」を重視し、ワークシートやグループワークを活用した社会保障教育の授業が行われています。
例えば、人生の一場面を想定したシミュレーションを行います。
「もし病気になったらどのような制度を利用するのか?」や「20歳になったらどんな保険に加入すればいいのか?」など直面する様々な場面を自分ごととして捉えて社会の一員としての責任と役割を考えたり、制度を知るだけではなく、将来の生活設計やキャリア形成につながる視点を持てるようになるのがこの授業の狙いです。
代表的な授業事例として「異なる立場から社会保障を考える」という授業で、「持続可能な社会保障制度をどう実現するか」をテーマに「20代会社員」「70代年金生活者」「主婦」「高校生」などの役割に生徒を分けて各立場から必要な社会保障政策を考え、グループで予算案を作成し、最後に全体で発表討論し、公平性や優先順位を考察するといった授業が行われています。
これから全国の高校でこのような授業が実施されていくと思います。高校生だけに限らず、すべての国民が少しでも社会保障制度を理解して、よりよい暮らしを送れるようになることを期待します。
最後に厚生労働省でも高校生のための社会保障教育の教材を提供しています。ちなみに私も映像教材制作に協力しておりますのでご覧ください。そして、ご家族で社会保障について考えるキッカケになれば幸いです。
- いちのせかつみ(いちのせ・かつみ)
- 1959年 大阪府生まれ。大阪府東大阪市在住。
生活経済ジャーナリストとしてテレビ・ラジオのコメンテーター、執筆活動など多方面で活躍中。
家計から見た人生設計など親しみのある大阪弁での肩のこらないセミナーが好評。
お笑い系ファイナンシャル・プランナー 芸名:ゆかい亭マネー





