FPによる知って得する!くらしとお金の話

第3回

近年の遺言法制の動向

コープ共済について

2026年3月

遺産分割争いを避けるには、遺言の作成が効果的です。遺言の基本的な知識については既にお持ちの方が多いと思うので、今回は、近年の「遺言法制の動向」を中心にご紹介していきます。

遺言が必要な理由

「遺産は法定相続分で相続するもの」と思い込んでいる方も多くいますが、わが国は私有財産制である以上、自分の財産を誰にいくら残すかは、財産の所有者が「遺言」で自由に決められるのが大原則です。

遺言がない場合に備えて、一応、法定相続分という基準はあるものの、相続人の全員が話し合いで(遺産分割協議の中で)合意できれば、法定相続分にはとらわれず、自由に取り分を決めて構いません。

一方、自宅などの不動産が遺産の大部分を占める場合は、公平に分けるのが難しく、また、介護などの貢献分である寄与分や、逆に、取り分からマイナスすべき生前贈与などの特別受益の調整が必要な場合も、それらをどの程度反映させるか、利害が対立する当事者同士の意見が一致しないことがあります。そのため、認知症などで判断能力が低下する前に、最低限の取り分である遺留分に配慮した遺言の作成が、一般的には推奨されています。

たとえ家族円満で相続争いの可能性は低くても、長寿化により相続時に相続人の側が認知症になってしまい(典型例は高齢の配偶者)、遺産分割協議を行うための法定後見人や特別代理人の選任を、家庭裁判所に請求しなければならないケースも増えています。

こういった場合に備えて、遺産分割協議を行わなくても相続手続きが滞りなく行えるよう、遺言内に遺言執行者を指定しておけることも、遺言の利点のひとつとされています。

近年の遺言法制の動向

このように、遺言作成は遺産分割対策の基本であるため、より取り組みやすくなるよう、近年は様々な法改正が行われています。以下、その概要をご紹介します。

〈自筆証書遺言の方式の緩和〉

2019年1月13日以後に作成する自筆証書遺言からは、遺言「全文」の手書きが不要になり、「財産目録」の部分だけはパソコンで作成した財産目録や通帳のコピー、不動産の登記事項証明書等を添付する形でよいことになりました。

ただし、遺言の「本文、日付及び氏名」は、従来通り自筆で書き、押印する必要があります。

〈自筆証書遺言書保管制度の創設〉

2020年7月10日には「自筆証書遺言書保管制度」が始まり、自筆証書遺言とその画像データを、法務局(遺言書保管所)で保管してもらえるようになりました。

これにより、自分が作成した自筆証書遺言について、民法上の形式要件(本文・氏名・日付の自書と押印)に不備がないかを、保管申請時に法務局職員にチェックしてもらえる上、従来は自筆証書遺言のデメリットとされていた、作成した遺言の紛失、改ざん、破棄、隠匿も防げます。

死亡後は、遺言者があらかじめ指定した相続人等に、遺言が保管されている旨が通知されます。また、この制度を利用した自筆証書遺言は、家庭裁判所での検認手続きも不要なため、預貯金の解約や不動産の名義書換といった相続手続きが速やかに行えます。

〈公正証書遺言のデジタル化〉

2025年10月1日からは「公正証書遺言のデジタル化」が始まり、遺言作成手続きの一部をオンラインで行えるようになりました。

従来は、事前の遺言内容の相談や、遺言への署名押印手続きは、遺言者本人が公証役場に直接出向き、公証人と対面でやりとりする必要がありました。それが難しいときは、病院などに出張してもらうことも可能でしたが、手数料が割増しになり、別途、日当や交通費もかかるなど金銭的な負担が重くなっていました。

今後は一定の要件を満たせば、公証人とのオンライン面談や電子署名などを利用して公正証書遺言を作成でき、完成した公正証書遺言の正本や謄本も、書面ではなく電子データで受け取れます。

〈自筆証書遺言のデジタル化の検討〉

デジタル化の検討は、自筆証書遺言でも進んでいます。2025年7月29日に法務省から示された3つの試案では、手書きではなくパソコンやスマートフォン等で遺言の本文を作ることを認めた上で、

  1. 1その内容を本人が朗読したものを、録音や録画等で記録する方式
  2. 2そのデータを公的機関で保管する方式
  3. 3その内容をプリントアウトした書面を公的機関で保管する方式

の3案について2025年9月24日まで意見募集が行われ、現在も議論が継続しています。

これらの改正により遺言作成のハードルは下がりつつありますが、自筆証書遺言の保管申請件数や公正証書遺言の作成件数、自筆証書遺言の検認件数は、依然、微増にとどまっています。

【自筆証書遺言の保管申請・公正証書遺言の作成・自筆証書遺言の検認件数の推移】※1

  2020年 2021年 2022年 2023年 2024年
自筆証書遺言の保管申請件数 12,631※2 17,002 16,802 19,336 23,419
公正証書遺言の作成件数 97,700 106,028 111,977 118,981 128,378
自筆証書遺言の検認件数 18,277 19,576 20,500 22,314 23,436

とはいえ、相続対策を「するつもりがない」という人は、少数派ではないでしょうか。私が日々お客様と接していて感じる限りでは、「何から始めたらいいか分からない」「気持ちが変わるかもしれないからまだ決められない」人の方が、圧倒的に多い気がします。

相続をとりまく法制は時代に応じて変わり、その最適解もご家庭によって千差万別です。

今回の、全3回のコラムでご紹介した内容が少しでも、「わが家にあった相続の形」をみなさまが考える際のお役にたてば幸いです。

福田 真弓(ふくだ・まゆみ)
福田真弓相続カウンセリングオフィス 税理士・ファイナンシャルプランナー
https://www.mayumi-tax.com/
1973年横浜市生まれ。資産税専門の税理士法人や証券会社に勤務後、独立。25年以上にわたり企業の会計税務顧問や税務申告・個別相談といった税理士業務を行うかたわら、講演、執筆、取材、メディア出演などによる情報発信や、相続と家族関係についての個別相談に注力する。
2022年筑波大学大学院修了(カウンセリング)、2025年より東京家庭裁判所家事調停委員
【主な著書・共著】累計発行部数88万部超の『身近な人が亡くなった後の手続のすべて』、ロングセラーの『自分でできる相続税申告(第3版)』(以上、自由国民社)、『必ずもめる相続の話』、『必ずもめる相続税の話』(以上、東洋経済新報社)他

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