2022年12月
2022年4月から、経済的にも時間的にも負担を減らしながら、薬局薬剤師の専門的知見を活用できる制度がスタートしています。
調剤から受け取りまでオンラインで完結
オンライン診療という言葉はときどき耳にしたことがあるかもしれません。新型コロナ以前、保険で認められるオンライン診療には厳しいルールが課せられていましたが、感染拡大の収束が見通せず、必要に迫られる形で時限的措置としてルールを緩和してきました。さまざまな議論を経て、2022年4月には、厚生労働省の『オンライン診療の適切な実施に関する指針』に沿って行うことを前提に、恒久化されるに至りました。
実は、診療だけでなく、処方薬の受け取りもオンラインで完結できるようになりました。通常は、医師の診察を受けて処方せんを発行してもらい、その処方せんをもって薬局に行き、薬剤師に調剤をしてもらうという流れですが、自宅にいながらすべてオンラインで行えるようになったのです。
利用に際しては、受診時に「オンライン服薬指導」を希望する旨と、利用する薬局名(○○薬局△△店)を医師に伝える必要があります。
医師の診察なしで「いつものお薬」が受け取れる
もう一つが、一定期間内に反復使用できる「リフィル処方せん」の制度が導入されたことです。医師が決めた期間内で3回までであれば、同じ処方せんを使って医師の診察なしで繰り返し薬を受け取れる仕組みです。ただし、投薬量に限度が定められている薬(新薬や医療用麻薬、向精神薬)や湿布薬は対象外です。利用できるのは、生活習慣病を含む慢性疾患で長期的に病態が安定しているケースです。
患者としては、「いつものお薬」のために医療機関に出向かなくてもよくなりますので、時間と医療費の節約にもなります。ただし、メリットばかりではありません。経過観察の機会が減るので症状の変化に気付きにくくなり、健康被害に繋がる可能性などが懸念されています。あくまでも医師が患者を診察して、リフィル処方が可能と判断した場合に限られます。
一方、調剤を担当する薬剤師の負担は大きくなります。次回の調剤予定日を確認し、予定される時期に患者が来局しない場合は電話などで状況を確認したり、リフィル処方せんによる調剤が不適切と判断した場合には調剤を行わず、受診勧奨をするとともに、処方医にすみやかに情報提供する役割を担います。リフィル処方せんの利用には、安心して任せられる薬剤師の存在が不可欠です。
知られていない薬局薬剤師の役割
あまり知られていませんが、薬局薬剤師の仕事は薬剤を調整するという対物業務にとどまりません。むしろ、昨今では薬剤師の対人業務に大きな期待が寄せられる傾向にあります。対人業務における薬剤師の役割は以下のようなものです。
- 薬剤を適正使用するための情報提供を行うこと
- 患者の服用歴を管理すること
- 処方せんに対して疑問が生じたときは医師に疑義照会を行うこと
- 残薬の確認を行い処方医と連携して対応を行うこと
- 調剤した薬剤の使用状況を継続的かつ的確に把握すること
厚生労働省は、「地域包括ケアシステム※の一翼を担い、薬に関して、いつでも気軽に相談できる かかりつけ薬剤師がいることが重要」(『患者のための薬局ビジョン』2015年10月策定)であるとしたうえで、上記のような薬剤師としての役割を担い、医薬品等の相談や健康相談に対応し、医療機関に受診勧奨する他、地域の関係機関と連携することを求めています。この求めに対応する『かかりつけ薬局』にはコストがかかってしまうため、高い調剤診療報酬点数(以下、点数)がつけられるようになりました。
反対に、病院の前にある薬局(いわゆる門前薬局)や病院の敷地内にある薬局は、多くの患者が利用するため、効率的な経営が可能だろうということで点数を下げられています。つまり、どこの薬局で調剤してもらうかによって値段が変わってくるのです。
※「内藤 眞弓氏による 知って得する!くらしとお金の話」『第1回 上手な医療のかかり方とお金の話』参照
利用する薬局とお薬手帳のあり・なしで値段が変わる
調剤の報酬は「調剤基本料」「薬学管理料」「薬剤料」などで構成されます。利用する薬局によって値段が変わるのは、そのうちの「調剤基本料」です(下図参照)。
また、お薬手帳を持参することで患者負担が軽くなるケースがあります。上述の薬学管理料の中の「服薬管理指導料」のことで、患者が安全に薬を使用できるよう、必要な情報を収集し、分析・管理・記録をすること、患者に対する説明を行うことで得られる報酬です。3カ月以内に同じ薬局に再び処方せんを持っていった場合、お薬手帳を持参していると、服薬管理指導料は45点(3割負担で140円)、それ以外は59点(3割負担で180円)となります。
お薬手帳は1冊持っていれば、全国どこの医療機関、薬局でも使えます。薬の名前、服用量と回数、飲み方、注意事項などを継続的に記録していけば、複数の医療機関にかかっていても、飲み合わせのために副作用が起きるとか、他の薬の効果を消してしまうことが防げます。また、医師の誤解や不注意で危険な処方がされた場合、薬剤師が専門家としてチェックする機能も期待できます。一人で何冊もお薬手帳を持っているとチェック機能が働きませんので、できるだけ同じ薬局を利用し、お薬手帳も1冊にまとめておくとよいでしょう。
処方せんを持参して調剤してもらうだけでなく、薬の飲み方や副作用など、気になることがあれば気軽に相談できる薬局を「かかりつけ薬局」としてもっておくことで、医薬品による服薬治療が安全かつ有効に行えると考えれば、多少のコスト高は納得できるのではないでしょうか。そのためにも、信頼できる薬剤師のいる薬局を見つけることが大切です。
- 内藤 眞弓(ないとう・まゆみ)
- ファイナンシャルプランナー・CFP®認定者
大手生命保険会社勤務の後、FPとして独立。現在は金融機関に属さない独立系FP会社「生活設計塾クルー」のメンバーとして、生活設計や資金運用、保障設計などの相談業務、各種団体のセミナーや講演を行う。週刊金曜日『くらしの泉』(月1回)、日経マネー『生保損保業界ウォッチ』(隔月)連載中。オンライン通信制講座ビジネスブレークスルー「資産形成力養成講座」「エントリーコース」担当。『くらしの豆知識2022年版』の「第5章生活設計と保険」の執筆担当。野村金融アカデミー「保険選び」担当。
著書は『共働き夫婦 最強の教科書』(東洋経済新報社)、『やりくりポーチでラクラクお金を貯める本』(主婦の友社)、『医療保険はすぐやめなさい』(ダイヤモンド社)、『お金のプロがすすめるお金上手な生き方』(コモンズ社)、『医療保険は入ってはいけない![新版]』(ダイヤモンド社)等