FPによる知って得する!くらしとお金の話

第3回

がんライフとお金の処方箋③

コープ共済について

こんにちは、がんライフアドバイザー®の川崎由華です。

前回のコラムでは、よく耳にする「がん治療にはいくらかかるの?」という疑問に、自分の1ヶ月の医療費の目安を知るためのチェック項目3つを挙げました。その中で、日本の医療制度や、加入している公的医療保険の保険者独自の制度によって、随分、負担額が軽減されることをお伝えしました。

しかし、手術でがんを切除した後に抗がん剤治療をすることになったり、放射線治療と抗がん剤治療を併用することになると、がん治療は1ヶ月では終わりません。病状によっては何ヶ月、何年と継続することになるケースも出てきます。いくら制度を利用しても、長期になれば医療費がかさむことはもちろん、休職して収入が減るなど家計の収支バランスが崩れてしまい、お金の相談に来られる方は少なくありません。お金の相談の裏側には、職場や家族、主治医との関係やコミュニケーションの取り方、治療方針、自分自身の生き方など、さまざまな不安が隠れていると感じます(前々回コラム参照)。

今回は、治療が長引くことになったけれど、がん治療を終えたAさんの例を通して、がんライフとお金に対する不安への緩和策をお伝えします。

図表1 Aさんの社会的側面・病状・相談時の言葉

図表1 Aさんの社会的側面・病状・相談時の言葉

抗がん剤治療開始前 「毎月こんなに医療費がかかると思うと、治療がイヤになります。」

確定診断前にいくつも検査を受け、入院して手術し、そして通院での抗がん剤治療が始まった頃には、医療費がかかり始めて3ヶ月ほど経過しています。Aさんは、検査時に約3万円、入院時には高額療養費制度を利用して医療費は約9万円、入院中の食事代が約1万円かかりました。これまでにない医療への支出を負担に感じるのもやむを得ません。

今後の治療を決める際に、治療頻度や治療期間、副作用だけでなく、必要になる医療費についても医療従事者に尋ねてみると良いでしょう。抗がん剤治療といっても、1回100円程度の飲み薬から1本100万円近い点滴まで、薬の値段は抗がん剤によって大きく異なるうえ、予定している治療期間、治療回数によっても金額差が広がります。

薬剤以外に検査に対する費用も生じるため、事前に計算できるのは概算になりますが、概算であっても見通しが立つと、漠然とした不安は緩和できます。また、自分の所得では高額療養費制度が利用できる金額なのかどうかという大事な点も知ることができます。

特に抗がん剤治療のように長期になる場合、医療費が高く、高額療養費制度を利用できる月が過去12ヶ月の間に3回あれば、4ヶ月目からは患者が負担する上限額が下がるしくみになっています(多数回該当といいます)。だから、これからの治療が毎月、高額療養費制度を利用することになるのかどうかは、治療が長期になる人の医療費に大きく影響するのです。

Aさんは、1年間かけて飲み薬の抗がん剤での治療でした。またAさんが治療を足踏みする理由には、お金のことがありました。その抗がん剤は、先発医薬品かジェネリック医薬品かの選択ができたため、それぞれの1年間にかかる医療費の概算を出しました。その結果、もし高額療養費制度が利用でき、多数回該当で上限額が下がったとしても、ジェネリック医薬品の方が医療費の負担が少なかったため、主治医との相談の結果、ジェネリック医薬品を使うことになりました。

抗がん剤治療開始直後 「上司から「治療に専念したら」と言われたが、できる限り働きたいと思います。夫として父親として頑張りたいんです。」

「治療に専念したら」という職場の人の言葉を、病状を心配してくれて有難いと感じる人、仕事に来なくていいと突き放されたようで淋しく感じる人など、感じ方は人それぞれです。感じ方は違っても、職場の人は休むことに理解をしているからこその言葉だと捉え、体調が優れなかったら休めばいいという気持ちで、自分なりのがん治療と仕事のバランスを探っていけば良いでしょう。

もし、これまで通りの働き方は難しくなり、病状や体調に合った働き方をしたいと思った時には、医療従事者の力を借りることができます。Aさんが働くうえで、どのような配慮が、どのくらいの期間必要なのかをまとめた意見書の作成を、主治医に依頼するのも一案です。

Aさんの場合、月に1度は通院治療が必要なこと、抗がん剤の副作用で嘔気が強いことと感染症リスクが高まることから、人混みの中での通勤や職場環境は避けた方が良いこと、在宅ワークであれば比較的勤務は可能であることなどを記載した意見書を、診断書と共に職場に提出し、職場の人から理解をいただき配慮した職場環境を得ました。

抗がん剤治療中 「しんどくて自宅でもパソコンの前に座っていられない日が多くて…まだ治療は続くのに有給休暇を使い果たしてしまいました。休んで給料が減ると生活に困ります。」

有給休暇であれば給与が出ているために、仕事を休んでいても収入の心配は少ないけれど、傷病休職という形となれば、原則として給与も賞与も発生しないため、一気に生活への不安が出てきます。しかし、そのような場合には、加入している健康保険に申請することにより、傷病手当金を受給できます。

最初は傷病手当金を知らずにお金の心配をしていたAさんでしたが、体調不良で休職した日の分の収入は、傷病手当金で補いました。傷病手当金はおおよその給与の日額の3分の2の金額しか出ません。預貯金を崩さなければいけない月もありました。しかし、在宅ワークを認めてもらったことで休職日を減らせたことと、夫が家にいる安心感から、小学生の子の帰宅を気にせず妻がパートの時間を少し増やせたことで、お金の不安を膨らませることなく、最後まで治療に向き合うことができました。

図表2 傷病手当金の概要

図表2 傷病手当金の概要

「がんライフとお金の処方箋」のおわりに

コラム内で紹介した高額療養費制度や傷病手当金など、がんライフを支えてくれる制度はありますが、治療が長引くほど、お金の負担も不安も高まることはやむを得ません。逆に言えば、治療が短く済めば、それだけお金の負担も不安も少なくなるということです。そのためにはやはり、早期発見、早期治療は欠かせない備えと言えます。

また、がん治療をするためだけに生きているのが「がんライフ」ではありません。

以前、がん治療中の女性が「がんになる前は楽しみのためにお金が使えたのに、がんになってからは命をつなぐためにしかお金を使えていない」と、私に呟かれたことがありました。その女性は、がんへの備えを全くしていなかったために、生活費も娯楽費も治療費に充てているとのことでした。

がんライフを送る際のお金も、健康な時と同じように、生活の質を上げるため、大事にしたい人間関係のため、未来の自分や家族のためなど、自分の心が満たされるためにも使えることが理想ではないでしょうか。そのためにも最低限、自分が利用できる制度や保障を確認し、医療費の目安はいくらになるのか、生活を支えるお金はいくらなのかを把握し、がんライフへの備えをしておきましょう。

川崎 由華(かわさき・ゆか)
一般社団法人がんライフアドバイザー協会 代表理事
大阪医科薬科大学大学院 医学研究科 在籍
社会福祉士、CFP®、1級FP技能士、住宅ローンアドバイザー、両立支援コーディネーター
医師の家系で生まれ育ち、がん治療関連薬を扱う製薬企業での勤務、両親のがんの罹患を経験。がん診療連携拠点病院で相談員を務める中、がん患者とその家族のお金や仕事の相談を受ける医療・介護者づくりの法人を設立。相談実績を医療関連学会での発表を重ねる他、お金や仕事の問題といった社会的苦痛の緩和も治療の一貫として考えていく重要性を、講演や雑誌、ラジオなどメディアを通じて全国の医療従事者や市民に向けて伝えている。

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